日経ものづくり 開発の鉄人

第25回 官は民のために,民は官のために

「開発の鉄人」こと 多喜 義彦

民でできることは民で・・・。
小泉改革のスローガンだが,これが拡大解釈され過ぎている。
「民がやるから官はどいてろ」という意味ではない。
官には官の役割がしっかりとある。
これを活用することが,民が成功するための近道だ。
官もそれを望んでいる。


 いつも,天をも恐れぬ発言をしているから,信じてはもらえないかもしれないけど,私はお役所を頼りにしている。何しろ,学生アルバイトの分際でガスの緊急遮断弁を開発したのが,この仕事に入ったきっかけだからね。安全に関するものだから,役所のお墨付きがなくては売れない。

どちら様でしょうか
 で,当時の通商産業省にアポなしで押しかけた。立地公害局に行くと,局長がちょうどドアを開けて来客を待っていた。そこに私が来たんで,その来客と思い込んだらしい。入れてくれちゃった。
 名刺を交換すれば待ち人でないことがバレる。「どちら様でしょうか」,というより「あんた誰」だよ。「実は」と説明すると,「そういう話は課長に」と,課長に電話してくれた。課長だって局長様からの電話だから「ははー」ってなるでしょ。おかげで親身になって話を聞いてくれて,その分野の担当者を呼んでくれた。担当者にすれば課長様からの電話だから,やっぱり「ははー」でね。話はうまく進むしかない。それが今の仕事につながっている。お役所に恩を感じなくちゃ人としてダメだよね。

結び付ける,という仕事
 経済産業省の東北経済産業局が音頭を取った「地域クラスター形成戦略懇談会」というのがある。私もその一員なんだけど,最近報告書ができた。
 クラスターっていうのは,特定の産業分野で地理的に近接した範囲にある企業や大学,研究機関,インキュベーター,ベンチャー・キャピタルが有機的に連携し合っている現象だ。日本では九州のシリコンアイランド,海外ではシリコンバレーなんかがそうだね。クラスターからは技術革新が生まれやすく,メンバー企業は競争力が高い。自然発生的にできるのが理想なんだけど,政策的な後押しが必要なこともある。
 東北地方っていうのは広く,薄く産業が分散している。岩手県だけで四国くらい広いんだから,たまらないよね。しかも,最大の都市である仙台が商業都市ときている。
 中国経済産業局とも一緒に仕事をしているんだけど,中国地方はもう少し規模がある。マツダを核に結び付いていると思うでしょう。表面的にはその通りなんだけど,技術者の心情にまで入り込んで聞いてみると違うんだ。
 戦艦大和なんだよ。呉工廠,広工廠。そこで育った人たちが戦後それぞれ独立してつくった企業群がある。海軍工廠の下請けがルーツの企業群もある。で,しっかりクラスターができている。

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図●「TOHOKUものづくりコリドー」の構想