日経ものづくり 直言

「もの」づくり力はイノベーション力
「モノ」との違いにこだわる

内閣府 総合科学技術会議 議員
柘植 綾夫


 ものづくりの重要性を人に話すと,少なからぬ方々から「まだそのような古い考えを捨てていないのか。これからはモノではなくサービスとソフトが重要だ」との反論が返ってくる。サービス産業の人だけではない。大学の教育・研究関係者もそうなのである。彼らは「モノ」と,ものづくりでいう「もの」との本質的相違を認識していないようだ。
 2006年4月からスタートした第三期科学技術基本計画は,基本姿勢の一つに「人材育成と競争的環境の重視~モノから人へ,機関における個人の重視~」を打ち出している。ここでいう「モノ」とは「ヒト・モノ・カネ」と表現される場合のように,生産要素または経営資源といった手段としての「モノ」を表している。
 一方,ものづくりという際の「もの」は,生産活動により付加価値を持った成果物を表す概念である。事業目的を具現化した結果,それが有形のものはハード・システムであり,無形のものはソフト・システムであり,顧客との橋渡し行為がサービスである。

日経ものづくり 直言
柘植 綾夫
1969年三菱重工業入社,2000年同社取締役技術本部長,2002年同社代表取締役・常務取締役技術本部長,2005年1月から現職。工学博士。