日経ものづくり ものづくりインタビュー

私が考えるものづくり

梅原 誠
シチズン時計 代表取締役社長

ものづくりを近くで見なければ
製品設計はできない

うめはら・まこと
1962年シチズン時計入社,精機事業部設計室に配属され,時計の全工程に関係する工作機械,組み立て機,測定機器などの設計・製作に従事。販売部門,企画部を経て1989年Citizen Machinary Europe(現Citizen Machinary & Boley)社長。1994年6月シチズン時計取締役(精機事業本部工作機械事業部長),1998年6月常務取締役を経て,2002年6月代表取締役社長に就任,現在に至る。2006年春に藍綬褒章を受章。著書に『国内生産でも世界に勝てる』(東洋経済新報社,ISBN4-492-50129-0)。

国内にものづくりを担う生産技術があるから,製品開発ができる。 生産技術と対話をしない,できない開発部門は,弱体化してしまう。 この考えからシチズン時計は国内生産にこだわってきた。 工場の国内回帰の動きを歓迎しつつ, 最盛期から2/3に減った国内製造業の人口を,これ以上減らしてはいけないと語る。

 時計っていうのは非常に特殊な産業なもので,それを造るための機器類も非常に特殊です。非常に小さいものを造らなければなりませんから。生産設備としては,私が担当していたころでもだいたい1000機種ぐらいの専用機を持ってました。今でも時計に限らず,生産手段は自分自身で造ろうと工夫していて,これがわれわれの武器だと思っています。
 製品開発の担当者も,ものを開発するときには生産技術と常に対話しなきゃいけないんです。生産手段も考えつつ,同時に新しい技術の導入も図ることになります。

生産工程が国内にある強さ
 例えば「エコドライブ」は太陽電池で動く時計で,電池交換が全く不要なものですが,今は文字板が太陽電池になっています。新技術では,時計周辺のリングだけが太陽電池になっていて,文字板では光を受けないものもあるんですよ。リングだけでこの時計を働かせるエネルギを供給できるよう開発したんです。
 しかしこういう新しい技術の採用は,素子の開発拠点だけでなく,生産工程がそばにあるからできるんですよ。時計の自動組み立てもそうだし,部品生産もそうだろうし,検査工程もそうなんですけどね。生産工程で生産技術屋の連中が結構いろいろやってくれているんですよ。例えば,今コストが30銭掛かるものを15銭にしたい,というとそのための手段を検討するわけですが,生産技術屋が集まって何をどうするかっていうのを考えて,新しい生産設備が必要だってなると,その機械の開発屋もそこで働くわけです。