日経ものづくり 設計者のための解析入門

第5回 熱との連成解析

強度解析に熱の影響を盛り込む
熱境界条件の使い分けに留意

構造物が周囲の温度条件によって荷重を受ける場合がある。熱応力などの問題である。これを評価するには,構造解析の前に構造物の温度分布を求めなくてはならない。今回は,その熱解析を実施するに当たってポイントとなる境界条件の基礎と設定方法について解説してもらう。(本誌)

西浦光一
積水化学工業 環境・ライフラインカンパニー京都研究所 ESSプロジェクト

 一般に,構造物は周囲の雰囲気温度や発熱,冷却などによる熱負荷を受けると,わずかに伸びたり縮んだりする。構造物が周囲の他の構造物に拘束されている,あるいは熱膨張係数の異なる部材が組み合わさっていると,その伸び,または縮みが制限されてひずみが発生する。これを応力に換算したのが熱応力である。
 特に著しい温度変化を伴う構造物の場合は,熱が強度に及ぼす影響を無視できない。例えば,熱負荷による金属疲労が原因で原子力発電所の部品に亀裂が発生し重大な事故を引き起こしたことは記憶に新しい。このように熱的負荷がかかる構造物では,熱応力が設計的に長期の使用に堪えられるかどうかを常に把握しなければならない。

熱膨張・収縮がひずみを生む
 最初に温度変化が構造に及ぼす影響を理解するため,平板のモデルを例に熱応力解析の結果を見てみよう。
 平板は長手方向の側面の両方もしくは片面を完全拘束した。温度条件は,初期温度の20℃から20℃上昇させて一様に40℃にした場合と,温度分布を初期温度の40℃から20℃に一様に温度降下させた2パターン。図は,平板の温度を40℃から20℃に一様に下げた場合のミーゼス応力と変位量を示している。(a)が両端を,(b)が片側だけを固定したものである。
 図(a),(b)の計算結果を見比べると,(a)の方が(b)よりも平板に大きな引っ張り応力が発生している領域が多いことが分かる。すなわち同じように収縮しようとしても図(a)は,変形を拘束条件で抑制しているため大きな応力が発生するのである。

日経ものづくり
図●平板の温度を降下させた熱応力解析の例
平板の両端,および一端を完全拘束して,温度を40℃から20℃に低下させた。両端を拘束した場合(a)の方が片側だけを拘束した場合(b)よりも大きな引っ張り応力が発生する領域が多い。