日経ものづくり 直言

成熟技術にこそ
フロンティアを見よ

内閣府 総合科学技術会議 議員
柘植 綾夫


 21世紀に,我が国のものづくり人口には量と質の変化が確実に訪れる。その中で,価値創造型ものづくり立国の地位を堅持するための技術戦略は「徹底して科学に裏打ちされたものづくり技術創り」であろう。
 半導体・MEMSなどのコアデバイスの超細線化・超小型化や,超高効率エネルギ変換システム,あるいは超省資源型製品開発などに典型例を見るごとく,理論限界に近い性能と信頼性を経済性とともに実現すること,あるいは全く新しい原理に基づく製品・サービスのパラダイムを創造することが,世界大競争に勝ち残る上での要諦である。その実現への道は,従来のような現場の試行錯誤的な経験と擦り合わせ型創意工夫だけでは不可能な,極限領域への挑戦の道である。
 そこには分子・原子レベルにまで立ち入った物質創生科学,界面科学,塑性・接合科学などのマルチフィジックス,マルチスケール問題へのアプローチが必須である。同時に,それを設計・製造・販売・サービスなどの現場に可視化,定量化することが求められる。まさに「科学に裏打ちされたものづくり技術創り」である。

日経ものづくり 直言
柘植 綾夫
1969年三菱重工業入社,2000年同社取締役技術本部長,2002年同社代表取締役・常務取締役技術本部長,2005年1月から現職。工学博士。