日経オートモーティブ Key Person

日経オートモーティブ Key Person

Volkswagen社
Executive Director
Powertrain Development

Rudolf Krebs氏

1989年アーヘン工科大学で博士号を取得。同年ドイツFEV Motorentechnik社のコンサルタントを兼務。1991年Andreas Stihl社の先行開発部門マネージャー。1996年ドイツVolkswagen社ガソリンエンジン先行開発部門の責任者、2002年ドイツAudi社直列ガソリンエンジン開発部およびガソリンエンジン先行開発部門の責任者に就任。2005年より現職。


 ドイツVolkswagenグループは2005年、ガソリン直噴エンジン「FSI」にスーパーチャージャとターボチャージャを組み合わせた「TSI」を発表した。同エンジン搭載の「Golf GT」は、排気量1.4Lながら2.0Lクラスと同等の出力と2.0Lクラスより良好な燃費を実現している。グループの直噴ガソリンエンジンに関する戦略を聞いた。  (聞き手は自動車ジャーナリストの 川端由美)

――TSI開発の狙いは何でしょうか。
 欧州ではディーゼル車が広く普及しています。高圧縮比で燃焼させるため低燃費な上、ここ数年でトルク特性の向上により運転の楽しさも改善しています。一方、ガソリン車では経済性を重視して燃費改善を進めてきたので、今後は運転の楽しさを実現する開発に力を入れるべきと考えました。新開発のTSIは、低回転域での太いトルクとレスポンスを提供します。
 「このエンジンはパワーがある」とドライバーに感じさせるのは、最大トルクではなく2000rpm付近のトルクの太さです。この領域のトルクを強化するため、スーパーチャージャとターボを組み合わせたのです。従来の「Golf GTI」に積まれるターボエンジンも、2.0L・4気筒エンジンで6気筒並みの出力を発揮するので十分ダウンサイジングの効果はあります。
 そうはいってもターボチャージャには低回転域でターボラグが付き物です。これに対し、TSIはスーパーチャージャにより低回転域での応答性を改善しています。1200rpm程度からでも過給により高いトルクを得られ、快い加速感につながります。

圧縮比高いTSIエンジン
――TSIの構成について詳しく教えてください。
 TSIでは排気側に小型のターボチャージャを付けています。加えて、エンジンで駆動するスーパーチャージャがあり、それらを切り替えるクラッチがあります。低回転域でスーパーチャージャをつなぐとすぐにトルクを得られ、約3500rpmになるとクラッチが離れてターボチャージャが働き始めます。 
 Golf GTに積む1.4Lユニットは小排気量ながら最高出力125kW(170PS)、最大トルク240N・mを発揮し、燃費も13.9km/L(7.2L/100km)です。このクラスの出力なら一般的には8~9L/100km程度の燃費となります。