「よく見ていてください。すぐに終わりますから」——。

 パソコンの画面には,DSPで実行するプログラムのソース・コードが表示されている。彼はキーボードをたたいて「目標電圧(target voltage)」や「傾き(ramp voltage)」などの値を入力する。「これをコンパイルして,ここにダウンロードします」。そう言って指さしたのは,JTAGとRS-232Cを介してパソコンと接続した,電源回路の評価ボードである。

 彼がリターン・キーを押すと即座に,3系統の出力電圧を表示するオシロスコープの画面に変化が現れた。0Vだった出力電圧が指定した通りの順番と傾きでそれぞれ立ち上がり,目標電圧に到達するとその電圧を維持する。彼はその後,パラメータを変更して同様の実演を2度,3度と続けた。3系統の出力電圧の波形は,そのたびに全く異なる電源回路のものであるかのように振る舞った。

 こうした柔軟な出力特性を実現できる,デジタル制御の電源回路が脚光を浴びている。スイッチング電源において安定した出力電圧や出力電流を得る制御を,DSPや専用論理回路などを用いてデジタル処理で実行するものだ。