日経ものづくり 事故は語る

空中停止した航空機エンジン
1年前からあった予兆

2005年10月30日午後4時,全日本空輸(以下,全日空)のANA628便が鹿児島空港を離陸して羽田空港へと向かった。高度約450mを上昇中,突然,右エンジンより異常音が発生。その後エンジンオイルの量が減少したため,4時40分に高度9300mで右エンジンを空中停止させ,5時12分に伊丹空港に緊急着陸した。幸い,乗員乗客は全員無事だった。

 トラブルを起こしたANA628便は,左右の翼に1基ずつのエンジンを持つ「Boeing777型機」で,左右どちらか一方のエンジンで飛行できるため,今回は事なきを得た。このとき搭載していたエンジンは,米Pratt&Whitney社(以下PW社)製の「PW4000」だった(図)。
 全日空が着陸後に問題のエンジンを検査したところ,排気の流れを整えるためにエンジン後部に取り付けてある「テールコーン」が脱落し,エンジン内部の高圧タービンブレードが折損していることが判明した。
 高圧タービンは,何十枚ものタービンブレードを羽根車状に配したもの。2段構成のタービンのうち後ろ側(2段目)の全82枚中4枚のタービンブレードに折損が認められた。テールコーンが脱落したのはこれらの破片がタービン内に巻き込まれてエンジンが激しく振動し,テールコーンを取り付けている32本のボルトが緩んだためと推察されている。

相次ぐタービンブレードの折損
 実は,運航中にブレード折損に至ったのはこれが初めてではなかった。約1カ月前にも類似のトラブルが起こっていたのである。
 2005年9月28日,高度5200mを上昇中のANA243便(羽田発福岡行き)の左エンジンで「ドン」という音とともに異常振動が発生した。排ガス温度が制限値を超えるとともに,エンジンオイルの圧力が低下したため,パイロットはすぐに左エンジンを空中停止し,羽田空港に緊急着陸した。このときも着陸後の検査で,2段目の高圧タービンブレードに29枚の折損が確認されている。トラブルを起こしたエンジンは今回と同じPW4000だった。

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図●米Pratt&Whitney社のエンジン「PW4000」
出力の異なる幾つかのシリーズがある。