日経ものづくり 特報

危機をばねに強くなった
三菱電機のFA事業

全体最適で擦り合わせ,顧客志向で造り込む

日経ものづくり 特報

三菱電機のFA事業が躍進している。ここ数年,増収増益を続け,2005年度もその記録を伸ばす見込み。だが,かつてこの事業は「氷河期」を経験した。2001年度に日本メーカーを襲ったITバブルの崩壊だ。同社のFA事業も受注が大幅に減り,厳しいリストラを余儀なくされた。苦境の中,彼らが復活のよりどころとしたのは「擦り合わせ」と「造り込み」だ。三菱電機のFA事業は何をどのように擦り合わせ,また,造り込んで成功をつかんだのか。ものづくりの現場の視点から解き明かす。(近岡 裕)

Part 1―躍進の源泉

ITバブル崩壊で需要が激減する中
発想の転換で成功のカギを発見

 2006年3月期(2005年度)の営業利益率が10.2%に─。三菱電機の2005年度第3四半期の決算時,同社は産業メカトロニクスセグメントの2005年度の売上高と営業利益を共に上方修正した。2005年度の営業利益率は10%を超える見込みであることを明らかにしたのだ(図)。同セグメントの営業利益は,同社グループ全体の営業利益の実に6割近くを占めることになる。
 この快走の原動力は,同セグメントに属するFAシステム事業。同事業はPLC(シーケンサ)やサーボモータ,コントローラ,NC装置などのFA機器と,放電加工機やレーザ加工機,水平多関節や垂直多関節ロボットといった工作機械や産業用ロボットを手掛けている。先の上方修正も,2005年度の中間決算発表時に行った上方修正も,その理由の100%がFAシステム事業の好調な業績によるものだ。
 こうした好業績は,自動車や液晶パネル,プラズマ・ディスプレイ・パネル(PDP)を中心とした堅調な設備投資の追い風を受けたものであることは事実だ。だが,「競合他社が微増の中,より(売り上げや営業利益を)伸ばしている」(同社産業メカトロニクス事業部メカトロ事業推進部メカトロ戦略グループ放電加工機統括の上田実氏)。良好な市場環境の中で見えにくくなっているが,三菱電機のFA事業はより稼げる強さを身に付けたのである。

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図●三菱電機の産業メカトロニクスセグメントの業績の推移

Part 2―全体最適で擦り合わせ

工場の最大の課題は「利益」
現場情報を収集し改善を加速

 「生産性が180%に向上し,リードタイムは半分に短縮。加えて,品質不良も半減した」。
 三菱電機名古屋製作所開発部次長兼e-F@ctory技術企画グループマネージャーの渡部裕二氏は胸を張る。同製作所に設置した出力10~750Wの小型サーボモータの生産ラインで実証した成果だ(図)。
 この生産ラインは「e-F@ctory」化した工場の中の一部。2005年8月から稼動し始めた。e-F@ctory化した工場とは,生産ラインに配置した各装置や機械から生産実績や稼動実績,品質情報といったさまざまなデータを収集し,生産工程を管理するMES(製造実行システム)や経営情報を集約するERP(統合基幹業務システム)といった情報管理システム側にデータを提供して,工場全体の最適化につなげるものだ。
 言い換えるなら,「e-F@ctoryはITにより生産現場の改善を補助するツール」(同社名古屋製作所放電システム部長の真柄卓司氏)である。工場に並んだ工作機械,産業用ロボット,コントローラ,インバータ,NC装置からデータを収集し,この集めたデータを基にMESを使って製品の生産性やコスト,品質,納期などに関して生産現場のムダ・ムラ・ムリを定量的に把握する。つまり,ムダ・ムラ・ムリの「見える化」を図るのだ。続いて,これらのデータを分析したり解析したりした上で改善策を練り,それを生産現場で実行していく。
 これにより,「必要なものを,必要なときに,必要な量だけ手に入れることで生産効率を高める」ジャスト・イン・タイム(JIT)生産を実行する工場を構築することが,e-F@ctoryの狙いだ。

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図●三菱電機が生産する小型サーボモータ

Part 3―顧客志向で造り込み

ボリュームゾーン狙って部品を共通化
混流生産と併せて納期を1カ月短縮

 ITバブルがはじけた2001年度。三菱電機の放電加工機の販売台数は,ピーク時の半分近くにまで落ち込んだ。工作機械は設備投資需要に大きく左右される浮き沈みの激しい業界だ。だが,あまりの急激な落ち込みに,同社は「当時はこのままのペースで販売台数が下がっていけば,いつか需要がゼロになってしまうのではないかという最悪の状況まで思い浮かべた」(同社産業メカトロニクス事業部メカトロ事業推進部メカトロ戦略グループ放電加工機統括の上田実氏)。
 今から振り返れば少々オーバーにも聞こえるが,当時の状況の深刻さを踏まえると,あながちそうとも言い切れない。工作機械業界の「氷河期」は2003年の夏まで続いた。「この厳しい状況に,製造業としての中国の台頭もあって,競合他社は生産拠点を海外にシフトした。国内から出なければ,事業を継続できないと判断したのだろう」(上田氏)。