AV機器や携帯機器に向けたマイクロプロセサを提供する半導体メーカーは,1個1個異なるIDを格納できる領域をLSI内部に用意した品種を提供し始めた。機器に実装する段階で任意のビット列を書き込んで,そのビット列を後から書き換え不能にする機能を持たせている。

 半導体メーカーの狙いは,このIDをDRM(digital rights management)に活用することにある。機器を制御するソフトウエアを実行するCPUコアと,映像や音声の符号化形式に対応した復号化回路などを集積したAV機器向けマイクロプロセサがIDを備えることで,コンテンツ配信サービスのユーザー認証処理における堅牢性や,ユーザーの使い勝手の向上が期待できる。LSIに格納したIDと,視聴権限や課金先といったユーザー情報とを照合する仕組みによって,コンテンツを視聴可能な機器を限定できる。

 マイクロプロセサにIDを持たせるというアイデア自体は古く,パソコンが先行した。1999年に発売された米Intel Corp.の「Pentium III」には,識別番号「Processor Serial Number(PSN)」が搭載されていた。ただし,このときは消費者から「プライバシーの侵害」とする大きな反発を受けた。結局同社は,PSNの機能を標準で無効と設定する状況に追い込まれる。その後の製品にはPSNを搭載していない。