日経ものづくり 開発の鉄人

第21回 漆にかぶれた男たち

「開発の鉄人」こと 多喜 義彦

「漆」といえば伝統工芸品。
斜陽産業であることは否定できない。
これが現代の塗装技術として
よみがえろうとしている。
ただし高級品限定だ。
アクリレート化合物とブレンドすることで,
紫外線硬化性の漆を造ることに成功した。


 「漆」と聞けば伝統工芸の香りがする。英訳すると「JAPAN」なくらいだから,極めて日本的な製品だ。用途も基本は食器に限られる。おわんやおはしが中心,大きくてもせいぜいお重とか,お盆までだ。
 漆の売り上げはピークの1/3~1/4に落ちた。漆器業会全体で1000億円を売り上げた時期もあったが,今では400億円だ。確かに,手入れも要らず,使いっ放しにできる今の食器に慣れると,気軽には使えない。食器は機械で洗うのが常識の時代だからね。

紫外線で硬化する漆
 この漆を工業製品用の塗料にしようと頑張っている男が市橋延隆さん。ユーアイヅ(本社福島県会津若松市)の社長だ。もともとは先祖代々受け継いできた市橋漆工芸(同)という会社で普通の漆器「会津塗」の製造卸をしていたのだが,本業とは別にユーアイヅの仕事をしている。
 市橋さんたちは新旧の技術を豪快に組み合わせた。漆に紫外線で硬化するアクリレート化合物を入れようっていうんだ。紫外線硬化樹脂,というか紫外線硬化塗料だね。塗料の成分が,特定の波長の紫外線を受けて活性ラジカルを発生させ,漆の側鎖にある二重結合とアクリレート化合物のビニル基に作用して重合するらしい。今のところ仮説でしかないけど,実用的にはこの説明で十分だろう。
 言い出したのは須藤靖典さん。福島県ハイテクプラザ会津若松技術支援センターの主任研究員だ。県の職員として,このままでは漆産業の将来は暗いと思ったんだね。
 漆が“工芸品”である理由の一つはコストだ。はけで塗るので人件費が掛かるということもあるんだけど,実は乾燥の時間も大きな要素だ。

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図●イデーのテーブルセット