日経ものづくり 特集

樹脂活用が拡大するとともに,高度な使い方になっている。
より魅力のある製品を実現できるからだ。
自動車では,車体パネルや窓の
一部を樹脂化する動きが活発化。
電子機器でも,小型・軽量で
多機能・高性能な機器を実現するために,
樹脂をこれまでよりも高度に使いこなそうという
傾向が強まってきている。
そうした状況を支えているのが,市場/社会ニーズの
「V(Variety)+3S(Savings,Safety,Style)」と
「PPM(Prediction,Production,Material)」
といった活用環境の充実。
ニーズが樹脂活用の必要性を高め,活用技術の進化が
より幅広く高度な樹脂活用を可能としている。
(富岡恒憲,近岡 裕)

【Part1】市場/社会ニーズ
  多品種少量と節約/安全/スタイル
  「V+3S」で樹脂の魅力が向上
【Part2】活用環境の充実
  予測技術と製法/素材の進化が
  用途を拡大し利点を増大
【Part3】事例編
  ホンダ
  湾曲した大物部品でPC使いこなす
  三菱自動車
  複数の部品の集約ですき間を削減
  日立化成工業/ヒロテック
  繊維強化ドアをプレスから射出へ
  大嶋電機製作所など
  成形から成膜,組み立てまで金型で処理
  名機製作所
  窒素ガスで再生材の寸法精度を向上
  シャープ/富士通
  物性改善し筐体に植物系樹脂
  宇部興産機械/大日本塗料
  微小型開きで塗装を金型で実施
  ジャパンコンポジット
  鋼に迫る精度でレクサスが認めたSMC
  東レ
  CFRPの成形時間短縮で量産車にも
  日立情映テック
  液晶テレビの外観部品を塗装レス化
  米Dow Chemical社
  装飾材を表面にインサート成形
  大成プラス
  アルミ合金に硬質樹脂を接合


【Part1】市場/社会ニーズ

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多品種少量と節約/安全/スタイル
「V+3S」で樹脂の魅力が向上

 「1.2tのクルマにおける樹脂の使用量は,1980年ごろに平均で85kg前後。これが2000年以降には110kg前後にまで増加している」(日産自動車材料技術部高分子材料グループ主担の寺田昌浩氏)。「プリンタや複写機のような事務機器では,シャフトやガラス部品を除くとほとんどの部品が樹脂でできている。電子機器の分野で樹脂化が進んでいないのは,サーバなどの大きな箱物くらい」〔米General Electric(GE)社Plastics部門グローバルマーケティング本部長電子・通信部門統括の児島力氏〕。
 こうした証言の通り,今,多くの工業製品で樹脂化が急速に進んでいる。しかも,それは高度化しながら拡大中。樹脂を使いこなせなければ付加価値の高い製品は生み出しにくくなっている。

車体や窓の樹脂化が拡大
 それを最も反映するのが,自動車業界だ。バックドア,フロントフェンダ,窓,フロントエンド・モジュール,インテーク・マニホールドなど,多くの部品で素材を樹脂へと代替する動きが加速している。
 例えば,バックドアでは,独BMW社の「X3」,独Audi社の「A2」,日産自動車の「ステージア」「ムラーノ」「Infiniti FX」「ラフェスタ」,マツダの「プレマシー」,富士重工業の「R1」などで,従来は鋼板製だったパネルが次々と樹脂になった(図)。BMW社の「6シリーズ」や日産自動車の「X-trail」などのように,樹脂製のフロントフェンダを採用する車種も増えている。

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図●バックドアを樹脂化した自動車の例
(a)が日産自動車の「ムラーノ」,(b)が富士重工業の「R1」。


【Part2】活用環境の充実

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予測技術と製法/素材の進化が
用途を拡大し利点を増大

 拡大かつ高度化する現在の樹脂活用を牽引しているのが「V+3S」で示される市場/社会ニーズ。この点についてはPart1で紹介した通りだ。もっとも,そうしたニーズだけで,樹脂活用はこれほどまで進まない。そこには「シミュレーションによる(樹脂製部品の強度・剛性/外観品質/信頼性に対する)予測技術(Prediction)」「製法(Production)」「素材(Material)」(PPM)の進歩がある(図)。

樹脂化を裏で支える予測技術
 「近年の樹脂活用の拡大と高度化に大きく貢献しているのは予測技術の進歩」。こう語るのは,日産自動車材料技術部高分子材料グループ主担の寺田昌浩氏だ。
 同氏は,その理由を次のように説明する。樹脂は金属と比べて温度変化や時間による特性の変化が大きい。しかも,成形の段階で,樹脂の密度(充填具合)が部位によってバラつくと,特性にも部位によるバラつきが出る。さらに,金属と比べると,成形後の収縮も大きく寸法安定性が低い。このため「樹脂を使いこなすには,そうした欠点が部品の強度や剛性,寿命,外観品質などにどのような影響を与えるのか,適切に予測することが不可欠」(同氏)というのである。
 そして,そうした予測が,シミュレーション技術の進歩とこれまでの解析ウハウの蓄積によって高精度に実施できるようになり,樹脂活用の拡大・高度化を可能にしていると同氏は語る。
 例えば,金属を曲げて造った部品は,いずれの部位も素材としては樹脂よりも均一。これに対して,樹脂では,ウエルドライン,ヒケ,反りといった成形時に発生する欠陥が存在する。すなわち,局所的に弱い部分や外観品質上で好ましくない部分ができてしまうのである。そのため,「試験片の特性や品質を調べても,実際の部品でそれがそのまま当てはまるとは限らない」(同氏)。 日経ものづくり 特集
図●樹脂活用の拡大・高度化の背景
市場/社会ニーズの「V+3S」に加え,「PPM」の進歩による活用環境の充実が樹脂活用の拡大・高度化を後押ししている。


【Part3】事例編

【ホンダ】

湾曲した大物部品でPC使いこなす

 「リアウインドウやサイドパネルと曲面でつながっているような一体感を出したい」「高い空力特性を確保したい」。デザイナーが希望し,性能面でも優れた車体形状を実現すべく,スポイラ一体型のエクストラ・ウインドウを樹脂で造ったのが,ホンダの欧州市場向け「CIVIC」だ(図)。
 エクストラ・ウインドウは,バックドアを構成する部品の一つ。ランプ類やナンバープレートを取り付けるロアガーニッシュという部品と,リアウインドウに連なるスポイラの間をつなぐ外板部品である。車内への明かり取りと後方視界の拡充を目的とした部品で,スポイラの取り付け位置が高いクルマで利用されることが多い。欧州向けCIVICでは,そうしたエクストラ・ウインドウを,スポイラやハイマウント・ストップランプのレンズ部と一体化し,それらすべての素材としてPC(ポリカーボネート)を使った。

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図●ホンダの欧州市場向け「CIVIC」
(a)は左斜め後方からの外観。(b)は後方を斜め上から見た外観。サイドパネルの丸みを滑らかに引き継ぎながら,後方にせり出すデザインとしている。



【三菱自動車】

複数の部品の集約ですき間を削減

 2006年1月24日,三菱自動車は軽自動車「i」を市場投入する(図)。軽自動車では珍しいリアミッドシップ・レイアウトを採用し,かつ全体が卵のように丸みを帯びた大胆なデザインを施した。車体の先端から後端までボディラインが滑らかにつながることから,同社が「ワンモーションシルエット」と呼ぶデザインだ。
 軽自動車でありながら,ライバル視するのはコンパクトカー。そのため,軽自動車の規格を満たしながら「コンパクトカー並みの車内空間を実現した」〔同社技術開発本部エンジン設計部エキスパート(エンジン装備設計担当)の山本和司氏〕。「社運を懸ける」と言う同社の意気込みを反映するかのように,競合他社にはない人目を引くクルマに仕上がっている。
 だが,その分苦労したのが,各部品に与えられた空間の狭さだ。特に車体の前方がその影響を受けた。ワンモーションシルエットのデザインは最優先事項のため変えられず,かつ車内空間を広げるためにホイールベースをコンパクトカーよりも長くした。そのため,オーバーハングが短くなり,車体の前方に搭載する熱交換機関係の部品を詰め込む空間が小さくなった。

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図●三菱自動車の軽自動車「i」
(a)外観。全体が卵のように丸みを帯びたデザインが特徴。(b)カットモデル。広い車内空間を確保した分,前方の熱交換機関係の部品や後方のエンジン周りの部品を搭載する空間が狭くなった。



【日立化成工業/ヒロテック】

繊維強化ドアをプレスから射出へ

 バックドアやフロント・フェンダ・パネルなどの樹脂化が進む自動車。(1)デザイン自由度が上がる(2)車体を軽量化でき,それにより燃料消費量やCO2の排出量を削減できる(3)モジュール化で部品点数や製造工数を削減できる―とあって,その傾向はさらに強まりそうな気配だ。そうした車体パネルを樹脂化する効果をさらに高めたり,樹脂を適用できる範囲をサイドドアなど他のパネルに広げていったりするために新たな製法を研究・開発しているのが,日立化成工業やヒロテックなどのメーカーだ。
 日立化成は,従来のプレス成形ではなく,射出成形によって長繊維入りの樹脂製バックドア・モジュールを成形する技術を開発。ヒロテックも,そうした長繊維対応技術を開発する一方で,鋼板やアルミニウム合金などと樹脂を組み合わせてドアモジュールを軽量化する技術を研究・開発中だ。