日経ものづくり 事故は語る

緊急レポート
一酸化炭素中毒事故多発で
松下電器産業に「緊急命令」

松下電器産業の石油温風機による一酸化炭素中毒事故が多発。経済産業省は「緊急命令」を発動した。同社の対策のどこに不備があったのか。その点を中心に,事故の経緯を振り返る。

解説―緊急命令の背景
あいまいな“製品寿命”が
「経年変化で事故続発」の真因

 2005年11月29日,経済産業省は消費生活用製品安全法第82条に基づく「緊急命令」を,松下電器産業に対して発動した。同社は重大事故を引き起こす可能性が高い強制給排気(FF)式石油温風機と石油フラット・ラジアント・ヒータの点検・改修を進めていたが,その進ちょくが思わしくないと同省が判断したからだ(図)。
 これらの暖房器具で発生する不具合を公表したのは同年4月20日である。同社製暖房器具による一酸化炭素中毒事故が同年1月5日,2月23日,4月13日に相次いで発生。同社は対象製品の無料点検・改修を決めた。
 発表の翌21日に社告を出し,同年5~6月と9~11月には新聞折り込みチラシを配布するなど,点検・改修を迅速に進めるための措置は取った*2。ところが同年11月21日,新たな一酸化炭素中毒事故が発生する。3日後の11月24日時点で行方を確認できた暖房器具の数は5万5499台。販売総数である15万2132台の約36%と低かったことから,緊急命令の発動に至った。

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図●松下電器産業のFF式石油温風機「OK-3537」
25機種,15万2132台が回収および点検・改修の対象となる。

分析―「R-Map」によるリスク評価
経産省の緊急命令は妥当だった
リスクを低減する安全対策とは

 松下電器産業の強制給排気(FF)式石油温風機による一酸化炭素中毒事故は,2005年前半に相次いだ。1月5日,2月23日,4月13日。同社はこれを受け,4月21日に社告を出しリコールを開始した(図)。これを見る限り,事故発生後のリスク評価の機会は社告までに3度あったことになる。
 ここではまず,1人が死亡し,1人が重体となった最初の事故発生時点におけるリスク評価を実施する。その場合,次の七つの観点から調査する。
(1) 現地調査と,現品回収による事故原因の究明
(2) 個別問題と共通問題の切り分け
(3) FTA(故障の木解析)分析などにより,異なるルートで同様の事故が発生する可能性の調査
(4) 前兆現象の有無
(5) 事故原因の内容により,経時劣化など今後拡大傾向にあるか否かの判断
(6) 事故内容はあらかじめ想定されていたのか。想定されていたとしたら,どこが実際と異なっていたのか
(7) 類似機種など他の製品と共通する問題の場合,影響範囲の調査
 以上の七つの観点について,3度目の事故から1週間後の4月20日時点における公開情報を基に推定していく。

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図●松下電器産業が新聞に出した社告