日経ものづくり 特報

欧州メーカーが導入を急ぐ
日本流ものづくり

マニュアルで人を育て,「製造する力」を強くする



Volvo社,SCANIA社,Unilever社・・・。名立たる欧州メーカーが日本のものづくりの手法を吸収し始めた。日本を手本に「製造する力」を引き上げるためだ。一般に,欧州メーカーの多くはブランド力に優れ,高収益性を身に付けている。だが,さらに飛躍するためには,日本流のものづくりを取り込む必要があると彼らは考えているのだ。欧州メーカーが日本のものづくりの何を重視しているのか。どの水準まで身に付け,実践しているのか。そして,日本メーカーの優位性はどうなるのか。日本プラントメンテナンス協会が「欧州企業価値視察団」を派遣した成果をレポートする。

 今よりも一層,生産効率を高めなければ生き残れない─。安全性を重視したクルマづくりで世界的なブランドを誇るスウェーデンVolvo社(図)。高級車を手掛けるため,1台当たりの利幅が比較的大きな同社でも,1990年代に入って自動車業界の競争が熾烈を極める中で,次第にこうした危機感を募らせるようになっていった。
 この危機感を払拭するために同社が着目したのは,強い生産現場を築くことに成功した日本メーカーの手法だ。そして1994年にVolvo社が導入に踏み切ったのが,TPM(Total Productive Maintenance)である。
 TPMは「全員参加の生産保全」のこと。1971年に日本が独自に編み出した全社的な設備管理手法だ。設備の造り方や保全方法はもちろん,使い方にまで踏み込んで改善していくことで,生産効率の向上を目指す。その追求は「ゼロ志向」。つまり,ppmオーダー以下の不良率には目をつぶる品質管理などとは異なり,TPMでは設備のロス(ムダ・ムラ・ムリ)を完全に排除し,生産効率を極限まで追求するという特徴がある。
 TPMでは生産効率を阻むロスとして,16大ロスを考えて特定する。設備に関する8大ロス,人の効率化を阻害する5大ロス,原単位(エネルギや材料など)の効率化を阻害する3大ロスだ。これらのロスは数値化して判断するため,設備のロスの本質をはっきりとさせ,改善の優先順位を明示するメリットがTPMにはある。
 例えば,ある生産現場において設備の効率が低下した場合,その原因を故障のロスや,段取りや調整のロス,チョコ停や空転のロスなど,八つあるロス(8大ロス)から特定でき,さらに,そうして特定したロスの深刻さの度合いも分かるのである。

日経ものづくり 特報
図●スウェーデンVolvo社のクルマ
安全性の高さで世界的なブランドを誇る。