日経ものづくり 直言

マネーゲームの犠牲になった
米国工作機械業界

政策研究大学院大学 教授
橋本 久義氏


 私が大学を卒業した昭和40年代の米国の工作機械産業は,仰ぎ見る霊峰のような存在だった。Cincinnati Milacron社,Moore Special Tool社,Kearney&Trecker社,Cross社,DeVlieg Machine社,Gleason社,Warner&Swasey社,EX-CELL-O社,Burgmaster社など,メーカーの名前を聞いただけでも興奮を覚えたものである。ある工場へ見学に行った時「我が社には米国製の機械が3台もあるんです」と,社長が胸を張っていたのを思い出す。
しかし,こんにちの米国工作機械工業は,往年の面影は全くない。かつての名門Cincinnati Milacron社は,大型工作機械をはじめ,多くの部門を売り払い,工作機械は現在全く造っていない。EX-CELL-O社,Gidding&Lewis社,Lodge&Shipley社などかつての名門の近況を知る人はまれだし,多くの場合意味がない。仮に名前は残っていても,内容が大幅に変わって,うっかりすると証券会社だったりする。

日経ものづくり 直言
政策研究大学院大学 教授
橋本 久義

1969年東京大学工学部精密機械工学科卒業,同年通産省入省。1994年埼玉大学教授,1997年から政策研究大学院大学教授。