日経ものづくり ものづくりインタビュー

両角 正幸氏 セイコーエプソン 専務取締役

効率の前に品質向上と人材育成
回り道に見えて効果が大きい

もろずみ・まさゆき
1968年4月諏訪精工舎(現セイコーエプソン)入社,1998年6月取締役情報画像事業本部副事業部長兼TP生産技術センター総括部長,2002年4月常務取締役情報画像事業本部副事業本部長,2003年10月常務取締役〔生産技術・生産(CPO),CS〕,2004年11月専務取締役〔生産技術・生産(CPO),CS・品質保証〕。

セイコーエプソンの最高生産責任者(CPO)。
国内工場だけでなく,
海外工場の改革にも長年取り組んできた。
あの手この手で改善を考え,
プリンタの完全自動組み立ても実行したことがある。
それらの経験から「回り道に見えても,
整理・整頓はやはり大事」と語る。
一見ユニークに見える取り組みも,
基本に忠実な発想だ。

◆―――プリンタをクリーンルームで造るというような品質重視の取り組みを続けていらっしゃいます。
 プリンタ造るのにクリーンルームまで必要ないのでは,とよく言われます。実はわれわれは半導体とか液晶の製造で,クリーンルームに関しては相当レベルの高いことを実行していますから,1m3中1万~2万個といった数桁下のクリーン度ならそれほど費用を掛けなくてもすぐに得られるのです。クリーンルームだけではなくて,例えば部品を納入してもらうのに段ボール箱はやめてもらようにしています。段ボールは削れて,それが部品に付いて,組立工場にゴミを持ち込むことになってしまいますから。
 これは何も特別なことではなくて,清潔で安全な現場環境を整える,整理・整頓の一環です。汚い工場では,製品にもゴミが入り込んで品質を落とす原因になりますから。回り道のようですが,現場の環境を整えることは品質と効率を向上する上で,結局は近道になるのです。
 生産の基本は4ステップで考えていて,最初のステップでは整理・整頓で現場の作業環境を整えます。第2ステップは品質を向上させる段階。さらにジャスト・イン・タイム生産による在庫削減などで効率向上を図るのが第3ステップ。最終的に,企業としての利益に結び付けていくのが第4ステップです。この進め方を海外事業所を含めて統一のテーマにしています。

◆―――効率化やコストの低減をまず考えたくなるような気がしますが,その前に品質,さらにその前に整理・整頓があるわけですね。
 実際にやってみると,第1ステップの整理・整頓が一番難しい。普通の工場に行ってみると,整理・整頓が全然できないのです。これをやらせるだけで,相当な時間がかかります。
 しかし整理・整頓ができれば自然に品質は上がるし,品質が上がれば効率化はかなり簡単に取り組めます。この段階まで来たら,世の中のさまざまな手法が使えるようになりますし。第1ステップと第2ステップができていないと,トヨタ生産方式のジャスト・イン・タイムなんてとてもじゃないですが実現できません。必要なだけ造るといっても,不良が混ざっているのでは話になりませんから。