日経オートモーティブ 連載

エンジニアのためのデザイン講座・第1回

ワイガヤの大切さと
デザイナーの役割

クルマの開発は、開発とマーケティング、デザイン、販売などすべての部門で、共同で取り組むことが欠かせない。相互に意見を出すことで開発の方向性も明確になる。ホンダの初代「シビック」でデザインを担当した立場から、部門をまとめる大切さと手法を解説する。

多摩美術大学教授、立命館大学客員教授
岩倉信弥


 1972年に、ホンダが発売した初代「シビック」は、同社でいう「ワイガヤ」を初めて採用して開発したクルマだ(図)。ワイガヤは、開発やマーケティング、販売など、部門を超えて議論して開発を進める手法である。筆者は初代シビックの外装デザインを担当しており、ワイガヤを活用したことで、当時としては目新しい機能を多く取り込むことができたと考える。
 初代シビックの開発は、1960年代後半に開発した「H-1300シリーズ」の反省から始まった。
 H-1300はホンダ初の軽乗用車「N360」の成功を受け、その上のクルマをということで開発された。当初の排気量は0.8Lからスタートしたが、東名高速道路をはじめとした高速道路の発展をにらんで、米国でいう100マイルカー、いわゆる160km/hの高速性を追求したため、結局1.3Lのエンジンを積むことにした。

原点に立ち返る
 しかし、独創性を追うあまり性能至上主義に陥り、結果としてユーザーの使い勝手を軽視した商品開発になってしまった。このことからホンダは、ただがむしゃらに開発を進めるのではなく「原点に立ち戻って考える」ことの大切さを学んだ。

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図●初代「シビック」
1972年に発売した2ドア(左)。後に4ドアが追加された(右)。