日経オートモーティブ 特集

インテリアでクルマを選ぶ、という消費者が増えている。住宅のインテリアへの関心が高まり、クルマの購買に女性の影響が増していることが背景にある。ユーザーが求めるくつろいだ空間を実現しながら、同時にクルマとして必要な安全性や視認性も満たす。そんな“魅せる”インテリアのつくりかたを、各社の新型車に見る。(鶴原吉郎)

【Part1:総論】

品質向上だけでは不十分
プラスアルファの魅力を追求

【Part2:質感と快適性】

リラックス追求した2列目シート
表皮材でポリウレタンの採用が拡大

【Part3:室内の安全性】

アクティブヘッドレストが標準に
ステアリングコラムも進化

【Part4:情報の視認性】

視線移動を減らすため
液晶化や遠方配置などを工夫


【PART1】総論
品質向上だけでは不十分
プラスアルファの魅力を追求

インテリアが消費者をひきつけるための重要な武器になってきた。 日産自動車は4年後をメドに内装の品質を飛躍的に高める活動を展開中。 その他のメーカーも「消費者の喜び」をいかに引き出すかに工夫を凝らす。 しかも、インテリアに要求されているのは品質だけではない。 情報化や安全基準の強化にも対応していく必要がある。

 2005年2月に日産自動車が開催した報道関係者向けの技術開発説明会。この席で研究開発担当の山下光彦副社長(当時常務)は、研究開発の重要項目として「今後4年間かけてインテリアの品質を飛躍的に高める」と表明した。
 日産は、2003年2月に「モダンリビング」を売り物にして発売したセダン「ティアナ」をヒットさせ、その後も、「クラスを超えたインテリアの質感」をうたったコンパクトカー「ティーダ」を2004年9月に発売。さらに、2005年4月には、内装にスエード調の布などを使った「プレミアムインテリア」仕様を9車種に設定するなど、このところ内装の充実に力を入れている(図)。山下副社長の発表は、こうしたこれまでの取り組みを一段と発展させることを宣言したものだ。

インテリアは「売れる」
 日産がインテリアを充実させる活動に取り組むきっかけになったのは「外部の調査会社のレポートなどで、当社のインテリアの評価が芳しくなかったため」(日産自動車内外装開発部内外装先行開発グループ主担の河合昭氏)。
 しかしその後、シートの写真だけを掲載したポスターを街頭に張り出すなど、異例の宣伝手法で「モダンリビング」をテーマにしたインテリアの独自性を訴えたティアナは、このクラスで磐石の強さを誇っていたトヨタ自動車「マークII」の販売台数を一時は上回る実績を上げた。その後に発売したコンパクト車の「ティーダ」も発売後4カ月間、国内販売台数で3位以内にランクイン。さらに、車種によりばらつきはあるもののプレミアムインテリア仕様のクルマも「販売台数でかなりの比率を占める」(日産広報部)など、インテリアに力を入れる日産の戦略は、消費者の支持を得ている。

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図●日産自動車「ティーダ」の内装
「プレミアムインテリア」仕様。本革/合成皮革のコンビネーションシートなどを採用した。


【PART2】質感と快適性
リラックス追求した2列目シート
表皮材でポリウレタンの採用が拡大

ユーザーのインテリアに対する関心が高まっているといっても、 やみくもにコストはかけられない。 ユーザーが重視するポイントを選び、 めりはりを付けて質感を向上させる必要がある。 コストをかけずに上級車に近い質感を実現できる新技術の実用化も始まった。



 マツダが2006年に発売を予定しているミニバンの新型「MPV」(図)。「アテンザ」から始まったマツダの新世代商品のしめくくりとなる車だけに、同社の製品を特徴付ける走りの良さだけではなく、ミニバンならではのインテリアの質感を重視した。

新開発のシボを採用
 Part1で触れたように、マツダの調査によれば、消費者が内装で質感を重視する部分は目の前にあって面積も大きいインパネ上部、実際に手に触れるステアリングやシフトレバー、シートなどだ。また質感といっても、重視するポイントは国によって違う。「日本では見た目を重視するが、例えばドイツなどでは実際に触った感じを重視する」(マツダクラフトマンシップ開発グループの松永清香氏)。このため新型MPVでは、インパネにソフトパッドは内蔵しないものの、見た目の質感を重視し、新しいシボを導入した。このシボは、質感を低下させる「テカり」を抑えたのが特徴。「新型MPVに採用したシボは幾何学的なもので、光の反射率を従来より40%減らすことに成功した」(松永氏)。
 一方で、ユーザーが実際に手に触れるドアのパッドはソフトな素材を採用した。ミニバンだけでなく、他社のセダンやSUV(スポーツ・ユーティリティ・ビークル)も含めてパッドの感触が優れたクルマを選んでベンチマークとし、これらの製品でもパッドを上から押したときのストロークが6mm程度なのに対し、新型MPVでは8.5mmのストロークを確保した。

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図●マツダの新型「MPV」
2006年発売予定。従来型より全高を60mm下げ、走行性能を向上させたのが特長。


【PART3】室内の安全性
アクティブヘッドレストが標準に
ステアリングコラムも進化

エアバッグの搭載などで室内の安全性はかなり進化した。 しかしまだこれで終わりではない。 米国では安全基準の強化が進み、シートやステアリングの 安全性強化が求められている。 こうしたニーズに対応する新しい技術が実用化され始めた。



 国内市場向けにはハッチバックがなくなり、車格も1.8Lに成長した新型シビック。シートに身を沈めると、その座り心地も従来型から大幅に進化しているのが感じ取れる。

樹脂製プレートで支える
 特に改善されたのが、腰椎をしっかり支えてくれる点。その秘密はシートの構造にある。
 このシートでは、腰から背中にかけて、シートバックのクッションを従来のようなS字ばねで支えるのではなく、柔軟性のある樹脂製のプレートで支持するようになっている。このため、腰椎を従来よりもしっかり支えてくれるだけでなく、体格の違いや姿勢の変化に追随して常に安定した密着感が得られるという。このシートフレームはホンダの次世代型フレームとして、今後、シビックより小さい車種から大きい車種まで、幅広く使われる予定だ。
 形状は異なるものの、樹脂製のプレートでドライバーの腰から背中を支える構造自体は、ホンダでは上級車種の「アコード」で採用されているオーストリアSchukra社製のランバーサポートでも採用している。
 ただし、今回ホンダが新型シビックで採用したシートの最大の特徴は、この樹脂製のプレートを、単に体を支えるだけでなく、シートの安全性を向上させるのにも活用している点だ。今回のシビックは、後方から衝突されたときに乗員がシートバックに押し付けられると、ヘッドレストが前方に移動して頚椎(けいつい)を支える「アクティブヘッドレスト」を全車に標準装備している。


【PART4】情報の視認性
視線移動を減らすため
液晶化や遠方配置などを工夫

クルマのエレクトロニクス化の進展で、 ナビゲーション、ナイトビジョン、各種の警報など ドライバーが認識しなければならない情報が増えている。 こうした情報をどうさばくのか。 各社は情報の多重表示や、メータの配置を変えるなどの工夫を盛り込んでいる。



 ドライバーが運転中に見なければならない情報が飛躍的に増加している。従来の速度計、タコメータ、燃料計などに加え、最近ではナビゲーションシステムを搭載した車両が増えている。また、ハイブリッド車では、パワートレーンの動作状態を示す表示があるし、今後は安全性を向上させるためのシステムとして、夜間の視認性を向上させるためのナイトビジョンや、周囲の車両や歩行者の接近を警告するシステムなども普及してくるだろう。
 こうした増え続ける視覚情報をどう整理し、少ない視線移動で読み取れるようにするかが、クルマのメータ周りに要求される大きな条件として浮上している。その対策の柱が、表示の多重化と、メータの配置の工夫である。

メータを液晶にして多重表示
 今後高級車から普及が進みそうなのが、一つのメータに多くの情報を多重表示し、多くのディスプレイをドライバーが確認しなくても済むようにする手法だ。この手法をいち早く採用したのが、日本では2005年10月に発売されたDaimlerChrysler社Mercedes-Benz部門の新型「Sクラス」である。
 新型Sクラスのメータは一見なんの変哲もないアナログメータ(図)。しかし、実は中央の速度計は液晶ディスプレイで、針や文字盤もすべて映像である。速度計の中には、ナビゲーションシステムのルート案内や、オーディオ機能などが表示されるほか、オプション設定のナイトビューアシストを搭載した車両では、夜間走行時に赤外線カメラの映像を表示する。メータをディスプレイ化することで、これ以外にも様々な種類の情報を、視線を移動させずに表示する可能性が開ける。

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図●新型「Sクラス」のインストルメントパネル
中央の丸型スピードメータが、実は液晶ディスプレイ。