日経ものづくり 特報

ソニーは復活するか

営業利益率4%の成算と開発力強化の処方箋

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業績不振で経営陣を刷新したソニーが、ものづくりの中枢を担うエレクトロニクス事業を強化する新しい経営方針を発表した。構造改革を実施し、商品力を強化することで、同事業の再生を図り、「2007年度の営業利益率を4%に高める」と同社社長兼エレクトロニクスCEOの中鉢良治氏は宣言した。果たして、その目標の可能性はどれくらいなのか。そして、同社が再び「世界のSONY」に返り咲くためには、どのような条件を満たすべきなのか。同社に詳しいアナリストの視点を交えて現状を分析し、開発力の強化という?処方箋?を提示する。(近岡 裕)

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【Part1】
 営業利益率4%の成算

顧客志向を貫く仕組みが見えない
偶然のヒット頼みではリスク大

 「実は,ソニー自身,何をすれば利益が高まるのか分かっていないのではないか」。  大和総研企業調査第二部シニアアナリストの三浦和晴氏は首をひねる。対象は,2005年9月22日にソニーが発表した,2005~2007年度の新しい中期経営方針だ。「業績を高めるために,ソニーがどういった方向に進みたいのか,この経営方針の内容では分からない」(同氏)。

2007年度に営業利益率4%
 件の経営方針は,2005年6月にソニー会長兼CEO(最高経営責任者)に就任したHoward Stringer氏と同社社長兼エレクトロニクスCEOに選任された中鉢良治氏の2人が,経営の主導権を握って以来,初めて策定したものだ(図)。実態は新たなリストラ策であり,中でも,同社の売上高のざっと7割を占め,かつ同社のものづくりの中心を担うエレクトロニクス事業の復活を主眼とする。
 発表会場において,中鉢氏はまず,業績不振の要因が「カスタマービューポイント(顧客視点)の欠如」にあると分析し,商品力を強化してヒット商品を生み出すと主張。そのために,カンパニー制を廃して事業部制にする組織変更を実施し,併せて,2000億円のコスト削減のために,1万人に上る従業員の削減や,15カテゴリーを対象とする不採算事業の処理,2005年度に対して20%のモデル数の削減,1200億円の資産売却を中心とする構造改革に取り組むと語った。
 数値目標にも触れ,「2007年度(2008年3月期)にエレクトロニクス事業の営業利益率を4%にする」と中鉢氏は宣言。ソニーグループ全体の営業利益率の目標も示し,同年度に5%と設定した。これらはすべてコミットメント(必達目標)だ。同氏は「経営陣は責任を取る」と明言し,Howard氏はエレクトロニクス事業の目標の達成について「中鉢氏は楽観的だ」と付言した。

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図●ソニーの2人のCEO
同社会長兼CEOのHoward Stringer氏(中)と,同社社長兼エレクトロニクスCEOの中鉢良治氏(右)。ものづくりの強化は中鉢氏が担う。

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【Part2】
 開発力強化の処方箋

デジタル家電の収穫期はあと3年
リソースの絞り込みで滑り込めるか

 確率の低い大ヒット頼みのリバイバルプラン─。これが,アナリストの視点から総括したソニーの新しい経営方針に対する評価だ。
 この状況を大和総研企業調査第二部シニアアナリストの三浦和晴氏はこう語る。「ヒット商品の誕生が,結果として業績を救うのであれば構わない。だが,初めからヒット商品を期待するビジネスはリスキーだ」。
 偶然の産物であるヒット商品を期待するのではなく,現在の各事業の特性を見ながら全体を強化し,トータルで営業利益率4%を達成するというのが,ソニーが本来目指すべき姿だというのだ。「かつてのソニーはヒットを積み上げていき,そのうち何年かに1本の割合でホームランを打っていた。それができる体制を社内に構築することが,ソニーが高収益企業に変貌するための条件だ」(同氏)。

なぜ,業績が悪化したのか
 果たして,大ヒット商品に頼らずに,ソニーが業績をV字回復させる方法はあるのか。それを探るためには,なぜソニーが市場から「負け組」のレッテルを張られるほど,エレクトロニクス事業の業績が悪化したかについて分析する必要があるだろう。
 同事業が赤字転落した直接かつ最大の原因は,製品の価格下落にコスト削減が追い付いていないことにある。こうした事態を招いた背景には,社外的な要因と,社内的な要因が考えられる(図)。
 まず,社外的な要因は,ソニーを取り巻くビジネス環境の変化だ。1990年代以降,電機業界ではアナログからデジタルへの技術の変革が起き,多くのAV機器でパソコン同様にモジュール化が進んで,水平分業モデルが世界的に広まった。こうして,AV機器の多くは比較的簡単に造れるようになり,それまで同社が外部に対して築いてきた参入障壁が低くなった。

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図●ソニーのエレクトロニクス事業の業績が悪化した背景
社内的な要因と社外的な要因がある。