日経ものづくり 中国的秘密・日本的秘策

第12回
正規代理店のはずなのに
コピー商品を堂々と

先進国から巨大市場への成長が待ち望まれている中国。だが,果たして先進国のメーカーが本当に中国市場で大きな利益を出せるのかについては疑問も残る。その理由の一つが,コピー商品がまん延しやすい環境だ。コピー商品は誕生するや否や,真正品を駆逐し,顧客もそれを望むという仕組みが中国には出来上がっている。(本誌)

遠藤 健治 海外進出コンサルタント


 「中国市場向けのビジネスはもうからない」。そう断言するのは,ある台湾系OEM企業で董事長(社長)を務める王さん(仮名)です。初めて私が中国に赴任した1990年代前半には,既に中国人相手のビジネスを展開していました。かつて私が所属していた日系企業が中国進出する前から,ひともうけするために,数人の台湾人と組んで中国に乗り込んできていたのです。中国ビジネスでは,私たちの会社のずっと先輩でした。
 豊富な経験から「中国の事情は知り尽くしている」と豪語する王さんですが,冒頭の通り,中国人を顧客とするビジネスになると,急に弱気になるのです。ずっと不思議に思っていたのですが,私が王さんと知り合ってから随分時がたったある日,彼は重い口を開き,その理由を話し始めました。実は,王さんはコピー商品の被害に遭い,大損した経験があったのです。

売れ筋の製品が急にストップ
 王さんが中国市場でまず始めたのは,ブレーカのビジネスでした。当時,中国メーカーが製造していたブレーカは,品質が非常に悪く,大変壊れやすいものでした。220Vの高電圧を使用する中国では,ちょっとショートすると建物が火事になってしまうことがあります。そうした事情から,品質の良いブレーカを中国市場は求めていました。
 この状況に大きなビジネスのにおいをかぎ取った台湾の投資家が,品質の良いブレーカを中国で製造し,中国市場で販売してもうけようと投資用のメーカーを立ち上げたのです。王さんのビジネスは,この会社が製造したブレーカを大量に仕入れ,中国市場の小売店へ売り渡す卸業でした。
 投資用とはいえ,中国メーカーよりも高い技術力を備えていたその台湾メーカーは,高価な海外製に負けない高品質のブレーカを製造しました。その上,価格を海外メーカーと中国メーカーのほぼ中間に抑えたことから,そのブレーカは,まさに飛ぶように売れていったそうです。