日経ものづくり 直言

生産革新で日本復権
次は半導体工程でも

 1990年代末,テレビ事業の責任者から半導体事業の責任者になった私は,半導体産業の重厚長大ぶりに驚いた。それまで,私は傘下のすべてのテレビ生産工場を補充生産システムに切り替え,安価な韓国製や中国製がはんらんする北米市場でテレビ事業の競争力を回復させてきた。ところが半導体事業は,ムーアの法則に従った微細化世代の進化(シリコンサイクル)とともに累進的に生産設備投資が巨額化する重厚長大産業であり,機敏な改革が難しかった。
 しかも,4年ないしは3.5年ごとに業績が落ち込むパターンを数十年も繰り返している。オリンピックと米大統領選があった2004年の翌年である本年は,厄年に当たる。
 日本のエレクトロニクス産業が21世紀の成長の糧とするデジタル家電は,いずれも多品種少量で,しかも需要変動が激しい製品。それに使うシステムLSIは小ロット生産せざるを得ない。しかし製造装置,生産システムは相変わらずDRAM時代のままであり,多品種少ロット生産となれば,とてつもない無駄な時間とコストが発生する。短いTAT(ターンアラウンド・タイム,造り始めから製品になるまでの時間)でかつ採算の取れる生産システムは不可能に近い。

日経ものづくり 直言
ソニー中村研究所
代表取締役社長
中村 末広

1959年ソニー入社,1986年英国工場長。ディスプレイ,セミコンダクタ,コアテクノロジー&ネットワークの各カンパニーで要職を歴任,執行役員副社長を経て現職。