日経ものづくり 事故は語る

凶器と化した防火シャッタ
煙感知器の誤作動は不可避

ガラガラガラ―――。1998年4月14日の朝8時10分過ぎ,埼玉県浦和市(現さいたま市)にある同市立別所小学校の1階東側階段の防火シャッタが,火災でもないのに突然閉まり始めた。ちょうどそこに登校してきた男児が,閉まりきる直前のシャッタの下に滑り込んだ。しかし,うつぶせの状態で床とシャッタの間に首を挟まれてしまった。

 挟まれたのは,当時小学3年生の男児。まもなく2人の教諭が近くにあった鉄パイプでシャッタを持ち上げて救出した。救出まで約8~9分間。男児は意識不明の重体で病院に搬送され,同日夕方の18時40分に収容先の病院で死亡した。
 事故のあった防火シャッタは,天井に取り付けられた感知器が煙を感知すると自動的に降下する仕組み。鉄製で,高さ約2.7m,幅3.2m。質量は約220kgと重いものだった。

湿気が犯人か
 埼玉県警による調査の結果,煙感知器が結露やほこりで誤作動し,信号を検知した防火シャッタが閉まった可能性が高いことが分かった。
 事故現場に取り付けられていた煙感知器は「イオン化式」と呼ばれるタイプ。微量の放射性物質アメリシウム241を含むセンサを内蔵している。通常は,アメリシウム241の放射線によって感知器内の空気が電離し,直流電圧のかかった電極間に電流が流れているが,感知器内に煙が入ると電離した空気と結合し電流が減少する。この電流の減少を,煙が発生したと判断して信号を発する仕組みだ。
 イオン化式は,煙の種類や色などに影響されにくく感度も高い。その反面,ほんのわずかな煙に反応したり,結露などの煙以外のものにも反応したりして,火災でもないのに警報を発してしまう場合がある(非火災報)。事故発生当日も前日からの雨で廊下や壁に結露が生じるほど多湿の状態だったようだ。
 当時の新聞報道などによると,事故直後に埼玉県教育委員会が実施した調査の結果,公立の小中高校などで,1998年4月だけで90件の防火シャッタや防火扉の誤作動があったことが分かった。しかも,1/3以上の36件は,事故のあった14日に発生していた。