日経ものづくり 中国的秘密・日本的秘策

第11回
コピーがオリジナルを超える理由
情報入手に貪欲な中国メーカー

オリジナル製品の品質を上回るコピー商品が中国市場などで出回り始めた。そうしたコピー商品を造る中国メーカーは,設計から量産化に至るまで,いかにものづくりに情報が重要であるかを知っている。彼らは日系の大手メーカーで経験を積んだ中国人の技術者をスカウトし,大手メーカー仕込みの情報を手に入れる。 (本誌)

遠藤 健治 海外進出コンサルタント


 日本メーカーのオリジナル製品を違法に模した中国メーカーによるコピー商品は日増しに増え,しかも品質も徐々に高まっています。最近のコピー商品には,オリジナル製品と品質が変わらないどころか,オリジナル製品をしのぐのではないかというほど“出来の良い”コピー商品も市場に出回っている始末です。
 しかし,いくら何でも中国メーカーの発展のペースは早すぎやしないでしょうか。日本メーカーのものづくりが世界で一流といわれるまでには,何十年もかかったのです。中国が「世界の工場」といわれ,ものづくりを起点に経済発展を図ろうとし始めたのは,つい最近のこと。日本メーカーと中国メーカーの間には,蓄積された技術やノウハウの差が大きいはずなのに,これほど早くオリジナル製品を超えるコピー商品が市場に出てくるなんて,にわかには信じられません。
 実は,これは手に入れる情報の質と量に理由があるのです。言うまでもなく,情報はものづくりにとって極めて大切なもの。しかるべき情報をしっかりと得られるか否かで,良い製品を造れるかどうかが決まるといっても言いすぎではありません。
 この貴重な情報をうまく取り入れる中国メーカーがある一方で,特に日本の中小メーカーの中には,情報をうまく入手できない企業が少なくないのです。中国メーカーのコピー商品が日本メーカーのオリジナル製品を上回るという逆転事例が出てくる背景には,こうした事情があるのです。

新興メーカーに最新の計測器
 私が日系の電子機器メーカーの中国工場で勤務していた時のこと。ある日,顧客先で問題が発生し,私がその工場に出向くことになりました。顧客は,香港の投資家たちが資金を出し合って創設した企業。幹部を香港人で占める一方で,一般の社員はすべて中国人で構成されている典型的な香港系の中国メーカーでした。
 問題の処理を終えた私は,情報収集の一環として,品質保証部門の責任者にその工場見学を頼んでみました。すると彼は「特別ですよ」と言いながら許可してくれました。さすがに香港の富裕層が投資した企業だけあって,工場の建物にも設備にもかなりお金を掛けています。さらに運の良いことに,品質保証部門と開発部門が同じ部屋の中にあったことから,私は開発部門も見学することができました。