日経ものづくり 直言

機動的な生産拠点は
「大より小」を尊ぶ

 「選択と集中」という言葉をよく耳にする。これが生産工場に適用されると,すなわち工場の統合を意味するようになる。
 ものづくりの歴史を振り返ると,20世紀初期にはコンベヤによる分業に基づく「テーラーイズム」が,米Ford Motor社のT型フォードで確立された。規格品を大量生産する規模の経済の理論で規格品を供給することによって,湯水のごとく安い値段で国民に普及させる。テーラーイズムは,松下電器産業の創業者の水道哲学とも一致して,当時,産業界の価値観の主流を占めていた。
 このような考え方が有効だったのは,20世紀中ごろまでの物不足の時代だった。20世紀後半から現在に至る物余りの時代では,造り過ぎによる在庫過多が値崩れを招き,企業に損失を与えるという考え方に改まった。
 日本では,トヨタ自動車の大野耐一氏によって「必要なものを必要なときに必要なだけ造る」というジャスト・イン・タイムの革命的なものづくりの思想が,世界に先駆けて生まれた。「まとめて造ると安くなる」というテーラーイズムの呪縛を脱する思想として,日本の製造業が発展する基礎となった。その後,日本のエレクトロニクス産業はこの考え方を進め,コンベヤを使わずに1人の作業者が工程のすべてをこなすセル生産システムを生み出した。今やこれが,21世紀のものづくり思想の主流となった。

日経ものづくり 直言
ソニー中村研究所
代表取締役社長
中村 末広

1959年ソニー入社,1986年英国工場長。ディスプレイ,セミコンダクタ,コアテクノロジー&ネットワークの各カンパニーで要職を歴任,執行役員副社長を経て現職。