富士フイルムは,Si製のフォトダイオードの代わりに有機光電変換膜を採用したCMOSセンサを使い,世界で初めてカラー画像の撮影に成功したと発表した。この発表は,2006年のモノクロ画像の取得成功に続く。今回のカラー対応品は,極めて明るい環境下でも暗い環境下でも,鑑賞に堪え得る画質を提供できる撮像特性を備えている。

 今回の研究成果は,撮像素子メーカーがこぞって開発に注力する裏面照射(BSI:backside illumination)技術とは全く異なる「材料からのアプローチ」によって,感度向上も低コスト化も実現できる可能性を示した。仮に大規模量産に至れば,主役の座を射止めてもおかしくない。

CMOSセンサの3大課題と無縁

 有機CMOSセンサは,既存のCMOSセンサ(非裏面照射品)が抱える以下の3大課題と無縁である。

 (1)入射する可視光の2/3近くを色フィルタで捨てること。

 (2)チップ表面とフォトダイオードの距離が遠いこと。井戸の底に光を当てるようなものなので,斜めに入射した光が所定画素に入射しなかったり,隣の画素に飛び込む「混色」が発生したりする。

 (3)フォトダイオードの光電変換の効率が,実はかなり悪いこと。

 裏面照射技術は,(2)の一部のみ解決する。配線層が存在しないSiの裏側から光を当てる効果は大きく,感度が約2倍になるとされている。ただし,混色問題は未解決なのでマイクロレンズや遮光膜の付加が欠かせない。ウエハーを機械的・化学的に薄型化したり,汚染を防止したりする必要もある。つまり,台湾TSMC社と組む米OmniVision Technology, Inc.のように,極めて大規模な出荷量と歩留まり向上技術を持つメーカーでなければ,採算確保は非常に難しい。

『日経エレクトロニクス』2009年8月10日号より一部掲載

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