橘川武郎 東京理科大学イノベーション研究科教授

経済産業省・資源エネルギー庁は7月下旬、2030年の望ましい電源構成を決めるベストミックスを決定した。ベストミックスを議論した「長期エネルギー需給見通し小委員会」の委員で、総合資源エネルギー調査会・資源燃料分科会の座長も務める橘川武郎・東京理科大学イノベーション研究科教授に、今回のベストミックス議論の評価や問題点、2030年に向けた実際の電源構成の行方に関して聞いた。

――2030年の望ましい電源構成となる「ベストミックス」は、「再生可能エネルギーの比率22~24%」「原子力の比率22~20%」などに決まりました。これをどう評価しますか。

橘川 今回のベストミックスは、事務局(資源エネルギー庁)に「原発は最低でも20%で、それにどれくらい積めるか」という思惑が最初からあり、それ以外の電源は、そこから逆算するような形で、数字を作ったというのが実態でしょう。

――なぜ、そこまで「原発比率20%以上」にこだわったのでしょうか。

橘川 「40年廃炉基準」を適用すると、新設の大間原発と島根原発3号機を入れても2030年には原発比率は15%にしかならない。「20%」を切ると、こうした現実が連想されて、「40年廃炉」が定着してしまう恐れがあります。原発運転期間の60年への延長などの余地を残したいエネ庁は、それを嫌ったのだと思います。

――今回、ベストミックスを議論した「長期エネルギー需給見通し小委員会」では、廃炉と並行して同じ敷地内に新しい原発を建設する「リプレイス」について、全く議論しませんでした。

橘川 本来、エネ庁は、議論のテーマにリプレイスも加え、それを前提にもっと高い原発比率を目指したかったのだろうと想像します。しかし、世論を気にする官邸が、「今回はリプレイスの話をしてはいけない」と注文を付けたのだと思います。リプレイスなしの場合、60年に延長しても原発比率の上限は23%になります。

――それなら、原発を「23%」にすることもできたはずです。

橘川 23%にすると、今度は再生可能エネルギーの「22%」を超えてしまいます。世論を意識する官邸は、「再エネの比率が原発を超えるように」との条件を出しており、それをクリアできません。そのため、政治的な判断で22%に落ち着いたのだと思います。つまり、「S(安全)+3E(経済性・環境性・安全保障)」というエネルギー政策の基本をきちっと考えたというより、こうした数字合わせだったのです。