生殖補助医療(不妊治療)に取り組んでいる越田クリニックは、汎用的なメーカー製電子カルテでは不十分として、FileMakerをプラットフォームとする生殖医療用電子カルテを開発・導入し、診療情報を管理している。データに基づいた治療計画とその実施が重要視される生殖医療で、治療成績向上に向けた効率的なデータ管理を行っている。

データに基づいた不妊治療の実践へ

 婦人科・泌尿器科を標榜科名として掲げる越田クリニックは、1994年の開院以来、生殖補助医療(不妊治療)に特化して取り組んできた。排卵日を正確に予測して夫婦生活を持つタイミングを決めるタイミング法、人工授精(AIH)、体外受精(IVF)・顕微授精(ICSI)の主要不妊治療に加え、着床不全・不育症専門外来を設けている。また、保険適応のある漢方薬を用いた不妊漢方治療も手掛けている。

 毎年度、500~600例を妊娠に導いており、2014年度には、総治療周期数3813例に対し、タイミング法で13.4%(妊娠数116)、人工授精で9.2%(同179)、体外受精-胚移植で30.1%(同302)という治療成績を得ている。

 現在、婦人科は生殖医療専門医として常勤医3名、非常勤医2名うち漢方治療専門1名、泌尿器科は生殖医療専門医1名、非常勤医2名、が医療部門に所属。看護部門は、不妊症看護認定看護師の看護師長をはじめ、不妊カウンセラーや体外受精コーディネーターの資格を持つ看護師・看護助手が19名。胚培養士8名、事務職員10名など総勢50名超のスタッフが不妊治療に取り組んでいる。

 越田クリニックは、胚培養の記録・管理用として、不妊治療を手掛ける医療施設が開発したSarahBaseと呼ばれる生殖医療支援ソフト(データベース)を7年ほど運用してきたが、診療記録は紙カルテのままだった。

越田クリニック副院長の山田成利氏
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 「生殖医療はデータに基づいた治療計画と実施が重要であり、その結果の蓄積・分析によって治療の見直しを行います。カルテの電子化を早急にという考えは持ち続けていたものの、汎用的なメーカー製電子カルテではデータ管理が不十分だという認識があり、なかなか電子化が進まなかったのが現実でした」(副院長 山田成利氏)。

 不妊治療は月経周期に合わせた検査・評価が基本にあり、治療計画に反映される。人工授精にしろ、体外受精にしろ、1回の施行で妊娠に結びつかないことも多く、データの蓄積が治療法の選択や再計画のベースとなる。また、昨今では若年女性のがん患者さんが、放射線治療や抗がん剤治療を受けることによる卵巣機能の廃絶リスクから、将来のために採卵・凍結を実施するケースも増えているという。「10年単位でのデータ管理の必要性が増しており、カルテの電子化も不可欠になってきました。従前から運用してきた胚培養管理のデータベースも、システムの永続性という点で不安要素がありました」(山田氏)と、FileMakerによる電子カルテ開発・導入に至った経緯を説明する。