エレクトロニクス産業の次のけん引役の1つとして、ウエアラブル機器が注目を集めている。一般にウエアラブル機器は電池で常時稼働し(いわゆるalways on computing)、数多くのセンサーを搭載する(いわゆるセンサーフュージョン)。このため、これまでとは違ったマイクロコントローラー(マイコン)が必要になる。すなわち、常時稼働でも長い電池寿命を可能にする低電力性や、多数のセンシングデータを処理できる性能の双方が、ウエアラブル機器向けマイコンには求められる。

 さらに、こうしたウエアラブル機器向けの高い電力性能比のマイコンには、適用先のアプリケーションによって、次のようなさまざまな機能が求められる注)

図1 ウエアラブル機器向けマイコンの機能ブロック図の例 55nm~180nmのノードのプロセスで製造されることが多い。
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  • 浮動小数演算機能
  • 8/16ビットデータの効率的な処理をするため、1つの命令で複数の演算器を動かすSIMD命令
  • DSP機能
  • IoTではインターネットを流れるデータの秘匿性、対ハッキング性
  • 車載向けでは、高度な安全性(ISO262 ASIL-D)
  • 決済用途などでは、高度な耐タンパリング性
  • A-D変換器やMEMSセンサー、RF回路の内蔵(図1)

 次に、ウェアラブル機器向け1チップマイコンのチップ内通信について考える(図2)。この例では、メインのオンチップバスは、AMBA AHBバスである。CPUコアに加えて、ROM/RAMもブリッジを介してAHBに接続される。GPIOやUARTのようなDMA(direct memory access) I/O は、AHBプロトコルでは複雑すぎるので、一度AHB-APBのブリッジを介した上でAPBに接続される。

図2 典型的なマイコンのアーキテクチャー
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 一方、オプションで加えられることが多い次のような回路ブロックは、AHBに接続される。例えば、DMAC(direct memory access controller)を内蔵するようなバンド幅の広いI/Oは、RAMにアクセスするのに便利なようにAHBに接続される。また、要求するバンド幅自体それほどでもなくても、AHB-APBのブリッジに伴うレイテンシーの悪化が問題になるような、低レイテンシーアクセスが必要なI/OはAHBに接続する。特定の演算を行うハードウエアアクセラレーター(浮動小数点演算器も含まれる)もAHBに接続する。

 これらのオプションで加えられる回路は、多くの場合AHB接続に際してプロトコル変換のためのブリッジが必要になる。そのためのロジック回路が追加され、ブリッジ回路内で数クロックが余計に消費されてしまう。これらは、システムレベルでの高い電力効率達成のためには、不利に働いてしまう。応用先によって、必要十分な回路のみ、搭載した方がいいだろう。

図A 大規模なアプリケーションプロセッサーICに、センサー処理向けの常時稼働領域 このようなアプリケーションプロセッサーICは14/16nm~40nmのノードのプロセスで製造されることが多い。
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注) ウエアラブル機器によっては、ホストのアプリケーションプロセッサー内部に、センサー処理を担う常時稼働の領域が含まれる場合がある(図A参照)。この記事では、この常時稼働領域も、ウエアラブル機器の1チップマイコンとして扱う。