1.はじめに

 植物生産において、光は生長に最も大きな影響を及ぼす要因である。特に、近年、人工照明を備えた完全人工光型植物工場が各地に建設され、蛍光ランプ、さらには光合成作用に有効な植物育成用LED照明が開発され、野菜などの生産が進められている。ここでは、植物工場における生育光源としての光応用の現状を紹介する。なお本稿は、著者らの編著である『植物工場-現状と課題-』1)の一部を抜粋、加筆したものである。

2.植物工場における生育光源としてのLED照明の利用

 発光ダイオード(LED)は、近年で実用的な発光効率(消費電力当りの明るさ)の高い高輝度白色LEDの登場や、製品価格の低下、さらに長寿命などの特徴から、家庭用器具や信号表示器などへの普及が著しく、「次世代の灯り」としての地位を着実に築いてきた。

 植物工場の場合、LED導入のメリットは、熱放出が少なく近接照明が可能であることや、場所を取らない設計が可能であることに加え、従来、植物育成用光源として利用されてきた高圧ナトリウムランプ(寿命12,000時間)やメタルハライドランプ(寿命約10,000時間)、蛍光ランプ(寿命 8,000~14,000時間)と比較して約4倍も長寿命な点であるといえる。

 照明ランプの寿命は、一般的に初期光量の7割に低下するまでの時間とされており、植物工場のように稼働時間が1日14~16時間ときわめて長い用途には、取り替え作業が少なくなるというメリットもある。例えば現在の国産蛍光ランプの寿命は、長いものでは12,000時間であるが、植物工場の年間の照射時間は16時間×365日で5,840時間にも達し、1.5~2年で寿命を迎えるのに対し、LED照明では7年にも及ぶ計算になる。また、狭く高所も含む栽培空間での大量の蛍光ランプの取り替えは、破損の恐れもあることから、安全・安心な新鮮野菜をモットーとする生産現場では、LED導入を目指す工場は多い。

 このようなLEDの植物栽培への応用分野を機能別にみると、光合成を目的とするものと、特定波長光による形態制御や花芽形成などの生理的影響に対して利用するものに分けられる。一方、照明器具としての分類は、従来照明の代替利用を目的とした「主光源」と、太陽光利用型植物工場で光合成促進を行うための「補光光源」、さらに、前述のような光による生理的な制御を目的とする「補光光源」とに分類される。いずれも光合成を目的とするものが大多数であり、青色や赤色LEDの利用や、パルス発光技術や素子の高輝度化などにより多くの製品が開発されている。

 一方、補光光源で光合成目的でないもの、例えば青色や遠赤色光による光形態形成や成長促進、赤色光による開花制御、近紫外光による病虫害への抵抗性負荷などさまざまな用途についても開発が行われているが、植物種によって反応が異なることや、その複雑な機構解明を伴うため、一部製品を除いて研究段階といえる。

図1 蛍光ランプ型LED白色照明による野菜栽培(山口大学植物工場)
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 実際に重要となるコスト面については、植物工場用の照明装置では、特殊な設計と製造を行い、生産数も限られることから、どうしても割高となってしまい、結果として費用対効果が望めないものも多いのが実情である。その点、一般照明用に普及した形状や製造工程を踏襲している蛍光ランプ型LED照明が、価格的にも現在検討できる唯一のLED光源といえる。ここでは、植物工場の現場において、蛍光ランプからLED照明に置き換える例として、一般照明用および植物育成の主光源用に開発された光合成の促進を目的とした照明、とりわけ低コスト化が進んできている蛍光ランプ型LED照明を中心に紹介する。