半導体や超伝導、ナノテクノロジーなど、産業界に欠かせない最先端技術が集まる応用物理学会は、バイオテクノロジー関連もカバーする。同学会内には有機分子・バイオエレクトロニクス分科会が設置され、ナノテクノロジーと組み合わせた「ナノバイオテクノロジー」が同学会で盛んに取り上げられ、半年ごとに開催する講演会には最新の研究成果と最新技術が集う。直近では、2015年9月に開催される「第76回 応用物理学会秋季学術講演会」内において、ナノバイオテクノロジーに焦点を合わせたシンポジウム「Asian Joint Symposium on Nanobiotechnology」を催す(開催日は2015年9月14日、詳細はこちら(PDF資料))。しかも、このシンポジウムはすべて英語で進行する。「ナノバイオテクノロジー研究の成果を世界に広く発信する」(シンポジウムのオーガナイザーの一人である、大阪大学大学院 教授 民谷栄一氏)のが狙いだ注)。なぜ今、「ナノ」なのか、「バイオ」なのか。民谷氏に聞いた。(日経テクノロジーオンライン、インタビューの聞き手は応用物理学会)

注)シンポジウム「English Session: Asian Joint Symposium on Nanobiotechnology」のオーガナイザーは、民谷栄一氏(大阪大学)、柳瀬雄輝氏(広島大学)、竹原宏明氏(奈良先端科学技術大学院大学)、三浦篤志氏(北海道大学)、熊谷慎也氏(豊田工業大学)

大阪大学大学院 教授 民谷栄一氏

――なぜ今、「ナノバイオテクノロジー」が重要なのでしょうか?

民谷氏 そうですね。例えば、ナノバイオテクノロジーにより、人の体に負担をかけることなく病気を早期に診断できたり、病気を引き起こすウイルスを速く検出することができれば、治療にも役立ちますし、流行を未然に防ぐことができます。チップ状のデバイスを体内に埋め込んで生体活動をモニタリングしたり、体の機能を補完できたりすると、新しい医療が見えてきます。

 このようなことを実現するためには、細胞の生体反応を細胞1個のレベルで理解すること、さらには細胞の中で起こっている反応を1分子レベルで理解することが重要になってきます。例えば、細胞の表面に試薬の分子が到達して何が起こるかを考えると、とても微小な領域における議論になってきます。ナノスケールでのセンシング、モニタリングが必要になって、「ナノテクノロジー」の出番となってくる訳です。こうして、「ナノ」と「バイオ」の融合である「ナノバイオテクノロジー」が盛んに研究されてきています。

 1つの例ですが、バイオセンサー分野でいうと、出版社ELSEVIERが提供する「Science Direct」(http://www.sciencedirect.com/)にて、バイオセンサーのキーワードで検索を行い、論文数を調査すると共にバイオセンサー、ナノテクノロジー両方のキーワードが含まれる論文数の調査を行ったところ、10年前の2004年は、バイオセンサーの論文に占めるナノテクノロジー関連の論文数は6.7%でしたが、2014年には26.2%までになっています。つまりELSEVIERに投稿されるバイオセンサーの論文20報に対して5報以上がナノテクノロジー関連の論文となっています。このようにナノテクノロジーとバイオテクノロジーの融合展開は、着実に進んでいることが分かります。

――応用物理学会における「ナノバイオテクノロジー」研究の特色とは。

民谷氏 一言でいえば、様々な専門を持つ研究者が集まって議論を行えるところです。細胞の表面を構成する分子をナノレベルで解析する研究者、細胞を1個ずつ精密にイメージングして解析する研究者、半導体微細加工技術をベースとするマイクロ・ナノ加工でデバイスを作って細胞の挙動を解析する研究者、計算科学でバイオと固体表面の相互作用を解析する研究者もいます。一方で、生物に学んでナノデバイスを作る研究者もいます。いろいろな研究者がいます。こういった研究者が集まって融合的に議論を進められるところは、応用物理学会の大きな魅力であると思います。

 応用物理学会の中ではバイオ関連ではいくつかのセッションがあって、投稿件数は年々増えてきています。応用物理学会の中でも最大級の分野といえると思います。この活気ある分野から発信していくことを考えました。