車載機器向けの入力電源は大幅に変動する。バッテリー電圧の変動はもちろんのこと、コールドクランク(5V以下)やロードダンプ(36V以上)等も起きる。このため車載機器の電源回路に対しては、広範な入力電圧への対応が求められる。

 広範囲の入力電圧に対応するための手段は多様だが、その1つに、昇降圧型スイッチングコンバーターを用いる方法がある。すなわち、昇降圧型スイッチングコンバーターを使って、5~16V程度の安定化電源を実現する。この安定化電源の主な用途としては、3~6個程度のLEDドライバー、オーディオ用電源、コールドクランク時でも安定な5V電源、モーター用電源などを挙げられる。

 こうした安定化電電を実現する昇降圧型スイッチングコンバーターには複数の方式がある。以下に3つの方式を紹介する。(1)SEPIC(Single-Ended Primary Inductance Converter)方式、(2)Hブリッジ方式、(3)バックブースト方式である。このうち、(1)のSEPIC方式では、昇圧用のコントローラーを用いて、昇降圧型コンバーターを構成する(図1)。

 SEPIC方式の長所は、入力側にインダクターLpがあるために、トランジスタで発生するパルス電流を平滑しバッテリーへの帰還ノイズが小さいことである。一方、短所は、昇圧型のコンバーターに比べて、コンデンサーとコイルが余分に必要になることだ。

図1 SEPIC方式昇降圧型スイッチングコンバーター

 (2)のHブリッジ方式では、受動部品としてインダクター1つのみを用いる。このため高集積化が可能である。Q1とQ2がオン、D1とD2がオフしている状態と、Q1とQ2がオフ、D1とD2がオンしている状態、の比を変化させて、出力電圧を安定化させる(図2)。この方式の長所は、動作方法によっては比較的高効率なことである。一方、短所は入出力ともパルス電流になりノイズが大きい点だ。

図2 Hブリッジ方式昇降圧型スイッチングコンバーター

 (3)のバックブースト方式では、図3のように昇圧コンバーターで出力と入力間に負荷を接続する。この負荷にかかる電圧は入力に比べて高くも低くもできる。バックブースト方式の長所は、昇圧コンバーターと周辺部品数が変わらないこと。短所はGNDがリファレンス電圧にならないことである。このためLEDドライバー以外には使われていない。

図3 バックブースト方式昇降圧型スイッチングコンバーター

 このほか、昇降圧が可能な回路としては、トランスを用いるスイッチング電源回路(フライバックなど)、昇圧と降圧または降圧と昇圧を組み合わせた回路、出力電圧は負になるが入力電圧の絶対値に比べて電圧値を大きくまたは小さくできる反転回路、CUK回路などがある。

 以下、この記事では、比較的低コストでよく用いられる、SEPIC方式の昇降圧型スイッチングコンバーターの回路(以下、SEPIC回路)を説明する。回路動作の概要、短絡保護、セラミックコンデンサーのうなり音対策、詳細な動作解析の順で紹介していく。