「神様制御」は実現できない

能見 こうした実績値に基づいた需給制御シミュレーションは、神様のようにすべて知っていて制御するという意味で「神様制御」などと呼ばれています。ただ、現実には天気予報から、太陽光と風力の合成出力を予測しているので、ぴったりと出力を予測するのは、難しいのが現実で、「神様制御」による出力制御率を実現することはできません。

 実際には、神様のように予測を的中させるのは無理で、少なからず予測誤差が生じます。 こうした誤差を前提に、より実態に近い予測を実現しようというのが、合成2シグマを使う方法です。比較的、実際の需給制御の運用に近いという点で、これまでも標準的に使われています。

――実際の系統運用の現場では、太陽光と風力の合成出力の予想値を、どの程度の余裕度をもって制御しているのですか。

能見 九電では、天気予報で「晴れ」の日には、合成2シグマの上限(上位から2番目)で、太陽光発電の出力を算定しています。つまり、ほぼ快晴になるという想定です。ただ、実際には、天気予報で「晴れ」でも、多少でも雲がかかれば太陽光発電の出力は落ちます。とはいえ、厚めの雲で日射量が90%に落ちるのか、薄い雲で97%の低下で済むのか、その比率を的中させる予測技術は、現時点では持っていません。現在の予測技術では、このくらいの幅を持たない限り、予測と実績が電力供給の安全性を損なうほど乖離してしまう恐れがあります。

 例えば、2013年5月の場合、「晴れ」の予報日には想定出力を設備容量の68%、「曇天または雨」の日には同51%に設定しますが、実際にはここまで出力が出ない日がほとんどです(図2)。平均すると合成2シグマと実績値の乖離率は10%となっています。言い換えれば平均で太陽光と風力発電の出力を10%多めに予測していたことになります。

図2●九州電力による太陽光の出力予測の例(出所:九州電力)
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 系統WGの検討に使ったデータでも、2014年10月~2015年1月の間、前日の4時の予測と実績値との間で、最大27%、平均10%の乖離があります。予測の時間を、できるだけ引き付けて、当日の4時にすると、最大で22%、平均で9%の乖離に改善します(図3)。

図3●九州電力による太陽光の出力予測精度(出所:九州電力)
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――実際の出力制御率は、実績ベースと合成2シグマとの間にあるということですね。

能見 そうです。太陽光と風力の出力予測が完全ではないことも織り込んでいる合成2シグマによる出力制御を、天気予報による予測精度の向上によって、実績ベースの制御に近づけるように努力しています。

 電力供給の世界では、時々刻々、送電量と需要量が合致していなければなりません。太陽光発電が普及するずっと以前から、電力需要の予測は永遠の課題でした。前日に、天気や気温、湿度、産業の動向など、さまざまな要因を分析し、翌日の需要を想定するという作業を、九電が設立されてから60年以上毎日繰り返し、予測ノウハウを蓄積してきました。

 それでも、夏に気温の予測が1度外れると、電力需要の予測が発電所1台分、変わってしまうくらいの差が生じます。電力需要の予測で、平均2~3%の誤差が生じます。

 そこに、太陽光発電という新たな不確定要素が加わり、系統運用の現場では、新たな工夫を加えながら、電力の需給バランスを一致させる苦労を重ねています。実際には、瞬時瞬時、絶えず苦心している状況です。

 出力制御率に関して、実績値に基づくデータを使った議論が見受けられますが、電力網の運用において、予測が完全に的中することを前提とするのは、現実的ではありません。