IoT、コネクテッドカー、Industrie4.0。最近、よく耳にするこれらに共通するのは、 「つながる世界」である。IoTは「Internet of Things」の略で、「モノのインターネット」と訳される。この言葉自体は以前からあるが、通信技術の発達により、ありとあらゆるモノに通信機能を持たせることが現実味を帯びてきた。そのため、近年あらためて注目されている。

 多くのモノが相互に通信することで、生活が便利になると期待されている。クルマがインターネットとつながる「コネクテッドカー」の世界では、クルマ同士が通信することで、正確な渋滞情報が瞬時に共有されたり、交差点での事故が回避されたりするようになるだろう。また、米AppleはiPhoneとクルマをつなげる新機能「CarPlay(iOS in the carの正式名称)」を2014年3月に発表し、クルマとスマホの「シームレスな経験」を標榜している。

 生産システムにもつながる世界が訪れようとしている。それが「Industrie4.0」である。生産設備、物流、注文情報などがつながることによって、顧客ニーズをリアルタイムに生産計画に反映したBTO(build to order)の実現が期待されている。さらに、企業の枠を越えて、大企業と中小企業の連携によるフレキシブルな生産システムの構築が想定されている1)2)

1)本連載第2回「Industrie4.0に透けるドイツの大戦略(http://techon.nikkeibp.co.jp/article/FEATURE/20150202/401943/)」を参照。
2)本連載第3回「次世代ビジネスプラットフォームの覇権争いがIndustrie4.0の本質(http://techon.nikkeibp.co.jp/article/FEATURE/20150220/405102/)」を参照。

 今まさに、「つながる世界」が幕を開けようとしている。そして、こうしたつながる世界では、とりわけ企業間で共有する「標準(standard)」なくして、大きくビジネスを育てることは難しい注1)

注1)標準の意義には多様な側面があるが、今回は「つながる」をキーワードにして、標準の意義を考えてみたい。

 その理由を端的に言えば、「調整コスト」の問題があるからである。この点を理解するために、次のような例を考えてみよう。ここに4個の製品があるとする。それぞれを順列につなげるとすると、そのつなぎ方は4!=24通りある(図1の左)。24通りのつなぎ方を吟味し、調整するコストはさほど問題ではないように思える。しかし、「つながる世界」では、つながる製品・サービス、部品の数は果てしなく増加する。今度は10個の製品がつながる世界を考えてみよう。先ほどと同様、それぞれを順列につなげると、なんとそのつなぎ方は、10!=362万8800通りにも急増してしまう(図1の右)。これは「複雑性爆発(complexity explosion)」と呼ばれる現象である。一般的に、つながる要素の数が増えるほど、そのつなぎ方は指数関数的に増大し、調整コストがかかってしまう。この調整コストを減らす役割を果たすのが、標準である。仮に、つながるためのインターフェースが標準化されていれば、互いに調整する必要がなくなり、調整コストは発生しない。その他、安全性、評価基準など、つながるために、共有すべきあらゆる次元の標準化を行うことで、調整コストを減らすことができる。

図1 複雑性爆発の例
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