臨床心理士による症状の評価で臨床情報の質を担保

 NCNPバイオバンクは、精神・神経・筋疾患および発達障害に関わるバイオリソースを保管・運用している。検体の質と付随する臨床情報の質の高さを重視しているのが大きな特徴だ。精神疾患の場合、外来診療で得た情報をそのまま研究に利活用するのは難しい。「例えば、うつ病と双極性障害に明確な境界を設定することは困難です。また外来診療で詳細な心理検査が行われることはまれで、医師によって病名付けや症状の評価が異なることがしばしばあります。標準化された診断や、詳細な症状の評価を電子カルテから得ることは容易ではありません」。メディカル・ゲノムセンター バイオリソース管理室長の服部功太郎氏は、バイオリソースに付随する臨床情報の質に関わる課題をこう指摘する。

メディカル・ゲノムセンター バイオリソース管理室長の服部功太郎氏

 そこでNCNPでは、バイオリソース管理室の5人の臨床心理士が、検体提供に同意した患者さんに対し、直接、簡易面接や各種の症状評価を行っている。「症状評価を担当する臨床心理士は、評価法の開発・翻訳を行った医師によるトレーニングを定期的に受け、評価の質の向上と均質化に努めています」(服部氏)と、臨床情報の質の維持に努めていることを強調する。

 臨床心理士が行う検査は、主要な精神疾患が疑われ、かつ同意を得た患者さんに対して実施される。主なものとしては、精神疾患診断のための精神疾患簡易構造化面接法「MINI」、うつ症状の重症度評価尺度の「HAM-D」と「MADRS」、躁(そう)症状の重症度評価尺度の「YMRS」、統合失調症の重症度評価尺度の「PANSS」、認知症スクリーニング検査の「MMSE」などがある。主治医の指示により、他の神経心理検査を行う場合もあるという。バイオバンク事業で得たこうした検査情報は診療現場にフィードバックされ、外来診療の評価に役立てられている。

 このような問診情報や検査情報などと検体情報を統合的に管理するのが、FileMakerをプラットフォームとするNCNPバイオバンク情報管理システムだ。