医療の主眼が変化

 宗本氏はまず、今後一層進むであろう日本全体の高齢化を指摘。それにより、医療の主眼が変化していくとした。具体的には、これまでは病気を「治す、救う」ことに主眼があったが、今後は「癒やす、抱えて生きる、支える、看取る」といった部分にシフトしていくという。

福井県済生会病院の外科主任部長、集学的がん診療センター長の宗本義則氏
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 それに伴い、医療現場全体の構造や役割が変化する。つまり、住宅を中心として地域のさまざまな立場の人々、機関が協力する、いわゆる地域包括ケアシステムが重要になるというわけだ。宗本氏の在籍する集学的がん診療センターでも、以前は医師間の連携だけだったが、近年は看護師や薬剤師、臨床心理士といった他業種(多職種)とのつながりを重視するようになっているという。

 集学的がん診療センターでは、がんの診療や情報の集約とともに患者、家族のサポートにも取り組んでいる。その一例としてがん哲学外来とメディカルカフェを挙げた。同センターでは、前者を医師と患者の一対一での対話、後者を多人数でのセミナーなどの集いと位置付けている。

 宗本氏は、がん哲学外来は従来のがん相談やカウンセリングとは異なると語る。がんを宣告された人は落ち込み、周囲の人々との関係もよそよそしくなってしまう場合がある。これに対してがん哲学外来は、設立者の樋野氏の言葉を引用しながら「笑顔を取り戻し、人生を生き切る事を支援する場」「患者への慰めと同情ではなく、がんと闘う患者自身の力を引き出す場」だとした。

 宗本氏は「がん患者の心配評価尺度(BCWI、Breif Cancer-Related Worry Inventory)」を用い、メディカルカフェへの参加前後でがんに関する心配がどう変化したかを調べた。その結果、おおむね参加後、特に女性の患者に同尺度の軽減が大きく見られたという。

 最後に、今後は病院のスタッフだけでなく、地域や関連企業といった広い分野の社会資源を活用していくことが重要だとした。その上で、「がん哲学外来を核にチーム医療を進化させていく必要がある」と結んだ。