クルマの性能はエレクトロニクス技術が決める─。こういわれて久しいが、今なおさまざまな技術が次々と搭載され、クルマは進化し続けている。そのカー・エレクトロニクスの歴史と共に成長し、クルマの電子化を支えてきたデンソーの技術陣が、4回にわたってカー・エレクトロニクス全体を俯瞰しながら、ポイントとなる技術の基礎について解説する。今回は、自動車とエレクトロニクスの歴史を振り返りながら、その密接な関連性について考察する。

 カー・エレクトロニクス技術を理解するには、自動車とエレクトロニクスという、20世紀における二つの巨大技術の歴史を俯瞰することが重要である。図1に、自動車とエレクトロニクスの歴史の概要を示す。世界初のガソリン4輪自動車は、1886年にGottlieb Daimler氏によって発明されたとされる。「いつでも、どこへでも、自由に移動する」という長年の人類の夢をかなえたものだった。

図1 自動車とカー・エレクトロニクスの歴史
自動車の歴史は1886年から始まり、その進化をエレクトロニクス技術が後押しした。
[画像のクリックで拡大表示]

 それから約20年で工芸品のクルマを工業製品と変えたのが、米Ford Motor社の「Model T」(通称T型フォード)である。その生産ラインはベルト・コンベヤ方式によって生産性を高めたもので、当時として画期的であった。このように19世紀の末に始まった自動車の歴史は、1908年に発売されたT型フォードにより、本格的な普及期に入った。このT型フォードは約20年間で1500万台が生産され、その後、ドイツVolkswagen社の「Type 1」(通称ビートル)が2100万台以上生産されるまで、単一モデルで最もヒットしたクルマとなった。

 自動車の実用化は、工業発展の歴史の集大成でもあった。すなわち、産業革命が外燃機関の発明から発展してエネルギー革命を起こし、そして内燃機関の発明へとつながっていった技術進展の帰結である。T型フォード以来、1960年代までの自動車の進化を支えてきたのは機械技術と生産技術であった。機械加工と内燃機関の技術の粋を集め、エンジンの性能向上を実現したほか、「走る・曲がる・止まる」にかかわる性能が機械技術の進化だけで支えられてきたことは驚異に値するものである。