臨床現場へのフィードバックで疼痛治療に対する意識・行動に変化

 入院患者の痛みとつらさのアンケートは、各病棟の看護師が毎日のバイタルサイン測定時に、1週間記入できる用紙に手書きで記入し、病棟ごとに1週間に1回、回収。それを担当職員がシステムに登録する。

毎日、患者に聞き取りして入力する痛みの記録シート。痛みを訴えた患者はリスト化され、担当医師、看護師にフィードバックされる
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 SPARCSシステムのデータは、電子カルテや各部門システムなどからデータを記録している「がん総合データベース」に転送される。入力の翌日には、痛みに困っている患者のリストをがん総合データベースから出力し、各病棟の看護師または担当医師にフィードバックする仕組みだ。

緩和ケアチーム主任看護師の山下慈氏
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 「誰がどのような痛みを訴えているのか、痛みによって何に困っているのかなどを書面で確実に伝えることで、適切な対応を促しています」。SPARCSの現場リーダーである緩和ケアチーム主任看護師の山下慈氏は、スクリーニング結果のフィードバックの意義をこう説明する。「患者さんにとっては、痛みに対する適切な対処が期待できるだけでなく、治療に関わる医療チーム全員が自分の苦痛について共有していることで安心感が得られます」という。

 緩和ケアチームが介入するがん患者数は、最近では年間200人前後。SPARCSプロジェクトが始まって、日々収集されたデータは延べ約2万3000件。毎日の聞き取り結果の臨床現場へのフィードバックは、疼痛治療薬の処方・増量などに対するスタッフの行動変容にもつながっている。SPARCSのデータの一部は薬剤師も蓄積しており、適切に医療用麻薬が使用されているか、薬剤による除痛効果がどうかなど、「現在では、医師、看護師、薬剤師など全スタッフが何らかの形でデータを利用しています」(山下氏)と話す。

 青森県立中央病院のSPARCSの取り組みは、現在、県の事業として県内の地域がん診療連携拠点病院へ展開していく計画が進行している。SPARCSシステムについては、同病院のシステムをベースに汎用システムの開発が行われており、三浦氏が担当している。開発中のシステムでは、がん患者に対する痛みの聞き取りの際にiPadのネイティブアプリを利用。医師・看護師などへのフィードバックシステムはWebベースになるという。


■病院概要
名称:青森県立中央病院
所在地:青森市東造道2-1-1
開設:1952年
病床数:695床(一般689床、結核6床)
職員数:1351人(医師165人、看護師635人、その他)
Webサイト:http://aomori-kenbyo.jp/
導入システム:ファイルメーカー「FileMaker Server」「FileMaker Pro」