大規模な都市開発やインフラ整備が各地で繰り広げられる街、東京。都市を構成する超高層ビルや集合住宅のなかには、省エネ性能の高さを競いつつ、災害時のエネルギー供給への配慮をうたうプロジェクトが目につくようになった。

 街区単位で新しいエネルギー供給システムを導入する例も見られる。リニア中央新幹線やJRの新駅開業に向けて開発が急ピッチで進む品川エリアをはじめ、次の4つの例にフォーカスし、変わる東京を象徴するスポットと、そこに導入されるエネルギー技術に着目する。

エネルギー都市TOKYOを牽引する建築プロジェクト群

 それぞれの具体的な話に入る前に、総論として、エネルギー都市づくりを牽引する代表的な7つのプロジェクトを紹介しておく。 

〔1〕豊洲新市場、千客万来施設
東京都江東区豊洲

電動荷役車や太陽光発電で環境負荷を低減

豊洲新市場、千客万来施設
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 開場80周年を迎え老朽化が進む築地市場を豊洲に移転するプロジェクト。青果棟、水産仲卸売場棟、水産卸売場棟の3棟など、延べ面積計41万8924m2を整備する。生鮮品の取引にとどまらず、加工やパッケージ商品の仕分け、一時保管など多様な消費者ニーズに対応。国際水準の管理システムを導入し、食品の安全・安心を確保する。2000kWの太陽光発電システムや荷役車の完全電動化など環境負荷の低減にも努める。隣接する街区には巨大温浴施設やレストラン、140の専門店などを擁する「千客万来施設」も建設予定。

〈豊洲新市場〉発注者、事業者:東京都 設計者:日建設計、日建設計シビル(協力)、日本設計(協力)、梓設計(協力)、山下設計(協力) 施工者:鹿島・西松建設・東急建設・TSUCHIYA・岩田地崎建設・京急建設・新日本工業JV(5街区青果棟ほか)、清水建設・大林組・戸田建設・鴻池組・東急建設・銭高組・東洋建設JV(6街区水産仲卸売場棟ほか)、大成建設・竹中工務店・熊谷組・大日本土木・名工建設・株木建設・長田組土木JV(7街区水産卸売場棟ほか)、関東建設工業・鍜治田工務店・川口土木建築工業・国際建設JV(7街区管理施設棟) 竣工時期:2016年3月 オープン時期:2016年 主構造:SRC造(柱)、S造(梁)、RC造ほか 階数:地上3階(青果棟)、地上5階(水産仲卸売場棟、水産卸売場棟) 延べ面積:9万7669.52m2(5街区)、17万2485.78m2(6街区)、14万8768.20m2(7街区)
〈千客万来施設〉発注者、事業者:喜代村、大和ハウス工業 オープン時期:2016年 階数:地下1階・地上7階 延べ面積:約6万5700m2(5街区約2万6200m2、6街区約3万9500m2)
※2014年2月時点の情報

〔2〕東京ガス豊洲スマートエネルギーセンター
東京都江東区豊洲6

新市場を支える地域冷暖房施設

東京ガス豊洲スマートエネルギーセンター
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 豊洲新市場の隣接街区に建設する地域冷暖房施設。豊洲埠頭地区の街づくりを発信するPRセンターを併設する。情報通信技術を活用してリアルタイムに需給調整しながら、熱や電気を供給。CO2排出量を4割から5割削減する。

発注者、事業者:東京ガス用地開発、東京ガス 設計者:梓設計・日建設計・日本設計JV、内藤廣(デザイン監修) 施工者:竹中工務店、新菱冷熱工業、清水建設、東京ガス・エンジニアリング、ダイダン 竣工時期:2016年5月 オープン時期:2016年5月 主構造:CFT造・一部RC造およびS造 階数:地下1階・地上5階 延べ面積:1万1388.58m2

〔3〕東京日本橋タワー
東京都中央区日本橋2

72時間分の電源を確保した地域防災拠点

東京日本橋タワー
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 大規模複合開発の中核となる超高層タワー。低層階に店舗やイベントホールなどを配置し、8階以上をオフィスとする。建物のBCP対応に力を入れる。中間免震構造で耐震性を高めたうえ、ガスタービンシステムを採用した非常用発電機で72時間分の電源を確保。一部フロアにテナント専用の防災倉庫を設置し、災害時には日本橋駅前の地域防災拠点となる。

発注者、事業者:住友不動産、大同生命保険ほか 設計者:日建設計 施工者:大林組 竣工時期:2015年(超高層棟)、2017年(全体竣工) 主構造:S造・一部RC造(免震構造) 階数:地下4階・地上35階(A街区:超高層棟)、地下2階・地上2階(B街区:低層棟) 延べ面積:約13万8000m2

〔4〕小学館ビル
東京都千代田区一ツ橋2-3-1

外断熱と躯体輻射冷暖房を導入

京橋MIDビル
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 出版業を営む小学館の本社建て替えプロジェクト。SRC外断熱と躯体輻射冷暖房を採用し、温度変化を抑えた室内環境を目指す。免震構造のクリアランス確保のために1階、2階の外壁を斜めにすぼめる形状とした。

発注者、事業者:小学館不動産 設計者:日建設計 施工者:鹿島 竣工時期:2016年9月 オープン時期:2016年12月 主構造:SRC造・一部S造(免震構造) 階数:地下3階・地上10階 延べ面積:1万7789.2m2

〔5〕京橋MIDビル
東京都中央区京橋2-13-10

外付けルーバーで高水準の省エネ

京橋MIDビル
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 庇としての機能を持つ奥行き50cmの石打ち込みプレキャストコンクリート構造体により、北側コア配置の3面採光オフィスながら、PAL値206MJ/m2・年という高水準の省エネを実現する。さらに外付けの固定式ルーバーで効率的に昼光を取り込み、光熱費を抑える。

発注者、事業者:MID都市開発 設計者:大成建設 施工者:大成建設 竣工時期:2015年2月 オープン時期:2015年3月 主構造:RC造(免震構造)・一部S造およびSRC造 階数:地下1階・地上12階 延べ面積:1万1916.03m2

〔6〕伊東屋銀座本店建て替え
東京都中央区銀座2-7

空気層で断熱、自然換気も併用して省エネ

伊東屋銀座本店建て替え
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 老舗文房具専門店「伊東屋」の銀座本店を建て替える。銀座通り側を全面ガラス張りにして、街と直接つながる開放的な店舗を目指し、テラスと一体化した会議室やレストラン、ホールも備える。有効間口を最大限に確保するため、隣地に面する約50cmの壁の内部に、構造体と設備配管を収めた。ダブルスクリーンと換気スリットによる自然換気や、両サイドの壁内の空気層を利用した断熱など、建物の形状に則した工夫を盛り込んで、エネルギー消費を抑える。

発注者、事業者:伊東屋、三菱地所設計(CM) 設計者:大成建設 施工者:大成建設 竣工時期:2015年5月 オープン時期:2015年6月 主構造:S造 階数:地下2階・地上13階 延べ面積:4180.02m2

〔7〕Nプロジェクト
東京都中央区日本橋3-7

エコブラインドや太陽光発電を採用

Nプロジェクト
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 本社ビルの建て替えプロジェクト。自動昇降する仮設の養生足場を使用する新解体技術で、既存建物を切断しながら解体。SRC造の地下躯体を再利用したうえでS造の上部構造を免震とすることで、工期短縮を実現する。エコブラインドや太陽光発電システムなどの採用でCASBEEのSランク認定を取得予定。

発注者、事業者:日誠不動産 設計者:大林組 施工者:大林組 竣工時期:2015年4月 オープン時期:2015年5月 主構造:S造(免震構造)・一部SRC造 階数:地下4階・地上12階 延べ面積:2万9788m2

※各プロジェクトの写真は、各々の設計者、施工者、発注者から提供されたものです。

「エネルギー都市TOKYOを牽引する建築プロジェクト群」は日経アーキテクチュア・プレミアム【プロジェクト予報2015】「都市を刺激する建築55」から転載したものです。