「2000個問題」が障害に

 次に、プライバシーの保護については、プライバシーの保護に関連する個人情報保護法が「ビッグデータの利用には不十分である」と指摘。医療関係の教科書などは過去の経験や知識、さまざまな診療記録などが利用されて作られてきた背景を挙げ、「医療情報の活用なしに医学の発展はありえない」と山本氏は断言した。実際、海外では1990年代後半からプライバシーを保護する法制度が始まったが、この法制度によって「公益目的の医学研究が難しくなっただけでなく、患者のプライバシーはむしろ保護されなくなった」というレポートがあったそうだ。

 さらに日本特有の問題として、個人情報保護法が行政機関や地方自治体などによって微妙に異なる「2000個問題」に注目した。この2000個問題は、例えば国の医療機関と県立病院、私立病院、独立行政機関、大学病院がひとつの医療連携プロジェクトをやろうとすると、「各機関でルールが異なるため、それぞれの個人情報保護委員会に許可を受ける必要がある」という現状を言い表したもの。これが「医療情報の連携をするうえで大きな障害になっている」と山本氏は力説した。

 最後に山本氏は、より安全性を高めるための情報学的な対策のひとつとして「秘密計算」を紹介した。秘密計算は、もともとの情報を複数に分散して情報量をゼロにするとともに元に戻せない状態にしながらも、計算だけは数学的に実行できる方法。これを利用することで、個別の症例が見えない状態でも医療費の合計を算出したり、特定の薬品の使用量を確認したりすることが可能になる。

 その他、情報の詳細を確認しなくても、特定の数値がどこから来た情報なのかを確実に追跡できる「セキュアトレーサビリティ」も理論的には可能とのこと。このような方法は他にもたくさんあり、「この分野は非常に精力的に研究されている」として講演を終えた。