前回は、レーザー照明の取り組みや、レーザー照明の光源である青色半導体レーザーに不可欠なInGaNについて紹介しました。InGaNは青色半導体レーザーだけでなく、高輝度青色LEDにとってもキーマテリアルです。と言うよりも、InGaNを発光層に用いた、ダブルへテロ構造を導入することで、初めて実用水準の明るさを備えた青色LEDを実現できました。
せっかくの機会なので、高輝度青色LEDをどのようにして実現したのか、本稿で簡単に振り返りたいと思います。大きく3つの技術成果があり、実現できました(図1)。順番に紹介しましょう。
まず、GaNのバッファー層を設けたことです(図2)。青色LEDは、サファイア基板の上にGaN系半導体を結晶成長させて作られています。ですが、サファイアとGaN系半導体の格子定数は大きく異なるので、結晶欠陥が多いなど、結晶品質が低い。
そこで、サファイア基板とGaN系半導体の間に、格子定数の差を緩和するための緩衝層、つまりバッファー層を設けます。異種基板上に半導体層を結晶成長させる場合、バッファー層を設けることは常套手段です。青色LED以前から存在していました。例えば、GaAs を異種基板であるSi基板上に結晶成長する方法で使われていました。
青色LEDでバッファー層と聞くと、赤崎氏と天野氏の研究グループの成果ではないかと思われるかもしれません。確かにAlNのバッファー層を導入して、その上にきれいなGaN結晶を作ったのは、赤崎氏と天野氏のグループが最初です。その成果が論文に出たのが1986年のことです。
これに対して私は、バッファー層にGaNを選択しました。AlNに比べて、バッファー層の上にGaN系半導体を作りやすいと考えたからでした。つまり、GaN系半導体だけで青色LEDを作れます。
GaNのバッファー層を作るのは非常に大変でしたが、「ツーフローMOCVD」装置を開発してからは、容易にGaNバッファー層を作れるようになり、その上にきれいなGaN結晶を作ることができました(図3)。結晶がきれいなため、GaNバッファー層を使用して、GaN結晶中の電子移動度は600cm2/Vsと、当時世界最高の値を出しました。この成果は1991年に論文として発表しました(図2)。
このツーフローMOCVDが、高輝度青色LEDの礎になりました。後述する二つの成果も、ツーフローMOCVDがあったからこそ、実現できました。