メガソーラーの番人、先進的O&Mの現場

パネル単位で発電量を監視、出力低下を早期発見

<第3回>米タイゴエナジーの監視システムを導入

2015/02/26 00:00
金子 憲治=日経BPクリーンテック研究所

 熊本県南部に位置する津奈木町は、東南北の三方を山に囲まれ、西は不知火海に面している。JR新水俣駅からクルマで10分ほど、出力1.78MWのメガソーラー(大規模太陽光発電所)「ウェル津奈木町発電所」は、こんな山に囲まれた海岸近くにある(図1)。

図1●山に囲まれた「ウェル津奈木町発電所」(出所:九州・アジア・パートナーズ)
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 同発電所は、不動産の企画・開発・建設・販売などを営むウェルホールディングス(福岡市中央区)が建設し、グループ会社の九州・アジア・パートナーズ(福岡市中央区)とアセットマネジメント契約を結び、同社が運用を担っている。ウェルホールディングスが建設し、九州・アジア・パートナーズが運用するメガソーラーとしては、「ウェル飯塚発電所」に続いて、2カ所目となる(参考記事)。

 太陽光パネルは、中国インリー・グリーンエナジー製(270W)を6624枚設置し、パワーコンディショナー(PCS)は、スイスABB製の500kW機を3台導入した。架台は、クリーンエナジー製の鋼製杭を採用した。EPC(設計・調達・施工)サービスは、エコシフト技術工事協同組合(東京都目黒区)が担当した。

わずか半年で5枚のパネルを交換

 同発電所では、2013年9月の発電開始以来、わずか半年の間に、5枚の太陽光パネルを交換した。そのうち2枚は、毎月の目視検査でカバーガラスにひびがあるのが見つかったもの。残りの3枚は、出力が半分以下に低下した不良パネルだ。いずれもパネルメーカーに連絡し、無償で交換してもらったという。パネルのひびは10年間の製品保証、出力低下は25年間の出力保証の要件に該当した(図2)。

図2●中国インリー・グリーンエナジー製(270W)を採用した(出所:日経BP)
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 九州・アジア・パートナーズのメガソーラー管理責任者は、「パネルの出力低下に早期に気づき、すぐに交換してもらえたのは、パネルごとに発電量を監視していたから」と話す。同発電所では、米国のタイゴエナジー(Tigo Energy)が開発・販売している「オプティマイザーシステム」を国内のメガソーラーとして初めて導入した。

 発電所を一見しても、一般的なメガソーラーに見えるが、縦方向に2列に並べたアレイの裏側をのぞきこむと、太陽光パネル2枚に1台ずつ、「マキシマイザー」と呼ぶ四角い箱が取り付けられている(図3)。マキシマイザーには6本の配線が伸びている。このうち4本は、パネル2枚の端子ボックス(各パネル+・-の2配線)に接続し、残りの2本は、隣に設置したマキシマイザーと直列回路のストリングを形成し、接続箱を介してPCSに送電する(図4)。マキシマイザー内の制御回路は、パネルごとの発電量(電流と電圧値)をモニタリングするとともに、ストリングを流れる発電量を最大化するように最適に管理する機能もある。

図3●太陽光パネル2枚に1台、取り付ける「マキシマイザー」(出所:日経BP)
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図4●「オプティマイザーシステム」の構成イメージ(出所:タイゴエナジー)
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無線と有線で発電量データを集める

 マキシマイザーがモニタリングしたパネルごとの発電データは、無線通信で「ゲートウエイ(データ中継器)」に送り、ゲートウエイから有線通信で「マネジメントユニット」に集める。マネジメントユニットは、オプティマイザーシステムの頭脳ともいえるコンピューターで、ここでパネルごとのデータを管理し、インターネットを通じてパソコンに表示する。

 「ウェル津奈木町発電所」の場合、約40台のマキシマイザーごとに1つのゲートウエイがある。パネル裏の所々に付いている白い箱がそれだ(図5)。マネジメントユニットは、発電所内の隅に置いた収納箱に設置している(図6)。6624枚のパネルを設置したので、各パネルをモニタリングするマキシマイザーは3312台、発電量データを中継するゲートウエイは81台、最終的にデータを管理するマネジメンントユニットは全部で18台の構成となった。

図5●マキシマイザーと無線通信でやりとりする「ゲートウエイ(データ中継器)」(出所:日経BP)
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図6●マネジメントユニットは発電所内の収納箱に設置(出所:日経BP)
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時々刻々と伸びる影の様子を可視化

 九州・アジア・パートナーズの本社では、マネジメントユニットから送られてきたパネルごとの発電量データをパソコン画面で「見える化」(可視化)している(図7・8)。パネルごとの電流と電圧値は、20分ごとに更新される。電柱や街路樹で影になっているパネルや、サイト内に部分的に雲がかかっている状況さえ、一目でわかる。モニタリング画面を見ていると、時々刻々と影が伸び、出力の低下するパネルが増える状況を確認できる(図9・10)。

図7●街路樹の小さな影がパネルにかかった状況(出所:タイゴエナジー)
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図8●塀などの大きな影がパネルにかかった状況(出所:タイゴエナジー)
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図9●13時にパネル1枚に影が掛かり始めた(出所:タイゴエナジー)
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図10●13時30分には影が長くなり、出力の低下するパネルが増えた(出所:タイゴエナジー)
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 「毎日、パソコン画面でパネルごとの発電量を監視しているなかで、発電量の少ないパネルに気付いた。パネルメーカーの技術者にもその監視画面を見てもらい、そのパネルを検査して不良を確認し、すぐに交換に応じてくれた」と、同社のメガソーラー管理者はいう。また、「発電所の設計段階では大きな問題ではないと判断していた、夕方の山影が、予想以上に影響することもわかった」という。

影による出力低下をストリング全体に及ぼさない

 同発電所で、タイゴエナジーの「オプティマイザーシステム」を導入することになったのは、設計段階から、時間帯によってパネルの一部に街路樹や電柱の影がかかることがわかっていたからだ(図11)。同システムを使うと、影による出力低下の影響を緩和できる。

図11●設計段階からパネルに影がかかることを想定していた(出所:日経BP)
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 一般的に、パネルの一部が影になると、その出力低下の影響は、そのパネルを含むストリング(直列接続した十数枚のパネル群)全体に及ぶ。例えば、本来、8Aの電流値を出力するパネルに影がかかって7Aに低下した場合、そのパネルを含むストリング全体の電流値が7Aに下がってしまう。オプティマイザーシステムを導入すると、ストリング全体の電流値を8Aに維持したまま、PCSに送電できる。

高速スイッチングで電流をバイパス

 この秘密は、パネルをモニタリングする「マキシマイザー」に発電量データの収集機能に加え、ストリングを流れる電力量を最大化する「インピーダンスマッチング」と呼ぶ機能もあるからだ。具体的には、何らかの原因でパネルの出力が低下した場合、高速スイッチングによってストリングからの電流の一部をバイパスさせ、一部パネルの電流値低下の影響がストリング全体に及ばないようにする。例えば、影がかかって電流値が8Aから7Aに低下したパネルがあっても、ストリング全体の電流値を8Aに維持できる(図12)。

図12●影による出力低下の影響がストリング全体に及ばない(出所:タイゴエナジー)
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 インピーダンスマッチング機能の有効性は、オプティマイザーシステムのもう1つの機能である、パネルごとの発電量モニタリングで確かめられる。木陰による出力低下は、影のかかったパネルだけに限定され、同じストリングを構成するほかのパネルの出力に影響していないことが、同システムの「見える化」画面から、一目瞭然だ。

 このスイッチング機能を活用すると、火災時など緊急時に太陽光パネルからストリングへの出力を遮断するといった安全性の向上にも応用できる。

導入費用は1kW当たり2万円

 タイゴエナジーは2007年に米シリコンバレーで創業したベンチャー企業。これまでに「オプティマイザーシステム」を全世界で約1万6000システム、合計出力で約170MWを販売してきた。日本国内では、2013年4月にオフィスを開設し、2015年1月までに186システム、合計出力で約19MWの販売実績がある。

 同システムの導入実績は、これまで10~数百kWまでの中小規模の太陽光発電システムが中心だった(図13)。その理由は、導入費用が1kW当たり約2万円、1MWでは約2000万円の追加コストとなることから、投資対効果を重視する大規模案件には採用されにくいことが挙げられる。ただ、「ウェル津奈木町発電所」のように、影による出力低下の影響を緩和できるサイトには、長期的に追加コストを回収できる可能性もある。

図13●米国の住宅屋根に設置した太陽光発電システムに導入した事例。樹木の影で、出力低下しているパネルが一目で分かる(出所:タイゴエナジー)
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 また、タイゴエナジーは、「オプティマイザーシステム」の機能をモニタリングなどに絞り込んで、低価格にしたタイプを製品化している。加えて、複数の中国メーカーなどが、同システムをあらかじめ端子ボックスに組み込んだ太陽光パネルを「スマートモジュール」という商品名で販売している。今後、低価格化が進めば、メガソーラーにも導入が進む可能性もある。