学術研究によって新しく発見された製法がもたらす「プロセスイノベーション」こそが、新材料を用いた製品開発を成功に導く――。こうした仮説を持つ筆者は、青色LEDを例にして検証を試みた。その結果、中村修二氏が開発した「ツーフローMOCVD法」が、青色LEDの研究開発を加速させたプロセスイノベーションの起点である可能性が高いことが分かった。言い換えれば、中村氏のツーフローMOCVDが青色LEDの製品化に大きく貢献したことを意味する。この検証の詳細は、筆者の博士論文「プロセスイノベーションによる科学知識の爆発」に記述しているが、本稿ではその概要を解説したい。

ロジスティック曲線を描く


 これまでプロセスイノベーションといえば、既に確立されている製法を改善して製品の生産性の効率化やコスト低減を実現する行為を指すものだった。しかし、近年の新材料開発においては、新しく発見された製法によって製品開発そのものを成功に導くというプロセスイノベーションの事例を見ることができる。本稿で取り上げるのはこのタイプのプロセスイノベーションであり、その例の一つが青色LEDの製品開発である。

 この検証の指標として利用したのが、関連論文の累積数(以下、「累積論文数」)である。社会科学分野では、累積論文数は科学進歩の様子を表しており、健全に進歩を遂げた場合、その増加の様子は「ロジスティック曲線」を描くとされる。つまり累積論文数がいつ、どのタイミングで急増したか見ることで、プロセスイノベーションの起点が何であったのかが分かる。今回は、文献データベース「Scopus(オランダElsevier B.V.)」に収録されている自然科学分野の出版物から関係する論文を抽出した。