前編では欧米と日本の宇宙ビジネスの現状を比較した。では、今後、日本の宇宙ビジネスはどのように変化し、どのようなビジネスチャンスが出てくるだろうか。まず、先に見たように、日本の宇宙ビジネス、特に宇宙インフラ産業は現在、主体が官であり、民間事業の機会は少ない。しかし、2008年の宇宙基本法を制定や2015年の新宇宙基本計画に伴い、研究開発中心の宇宙開発から、宇宙の利用や産業振興を強化する方向に舵を切った。つまり、今後は欧米の民間事業者と競争する機会が増える。ただし、現時点ではコスト競争力や短納期化、資金力などで日本のメーカーは欧米のメーカーに後れを取る。

 国内においては、国によるPFI(Private Finance Initiative)事業の推進がカギになりそうだ。PFI事業とは衛星の打ち上げなど国家的な事業でありながらも、民間側に裁量を持たせ事業運営などをさせるというもの。現時点で、地球観測衛星、Xバンド通信衛星、準天頂衛星の3つのPFI事業が動いている。新宇宙基本計画では今後10年間に衛星40機程度の打ち上げや宇宙産業全体の市場規模を5兆円へと拡大することを目指している。PFI事業では民間事業者が事業の主体となるため、宇宙インフラ産業における技術力、コスト競争力、短納期化力、資金調達力などの競争力が養われ、民間事業としての経営力が増す効果が期待できる。

 さらに、PFI事業で衛星やロケットが打ち上げられるようになれば、各種インフラの周辺に新しいニーズが生まれたり、衛星で取得された情報の民間活用も進んだりするため、新たなビジネスが生まれてきそうだ。現に日本政府が高いプライオリティーを持って整備を進める日本版GPSである準天頂衛星システムは、自立測位が可能となる7機体制の整備が決まっており、民間企業にとっては、大きなビジネスチャンスが期待できる。

 今まで宇宙産業で培ってきた技術を他の産業への転用することでもビジネスチャンスが生まれそうだ。例えば、ロケット打ち上げで培った高圧ガスや発電などのライフラインに係る事業の技術を活用・応用して、コスモテックは別府に地熱バイナリー発電所を設立した。固定価格買取制度を利用して収益を得る計画だ。

 さらに、次世代のビジネスの創出のために、宇宙技術を応用した先進的な技術開発を行う事例も見られる。例えば、日産自動車はNASAと自動車の自動運転技術を共同開発することを発表した。

 海外に対しては、特に新興国などで参入チャンスがある。日本の宇宙関連製品は、技術力の面では世界トップレベルにある。既に三菱電機によるトルコ衛星通信事業者への衛星「Turk-Sat」の輸出、スカパーJSATが打ち上げた衛星「JCSAT-4B(リッポー・スター1)」をインドネシアの放送サービス「MNC SkyVision」と「BIG TV」に提供する動きなど、ビジネスが徐々に拡大しているものの、東南アジア、中国地域の人口や経済規模を考えれば、拡大の余地は大きい注2)

注2)「技術で勝って、ビジネスで負けない」ために、技術力に付与される+αの部分は何か? +αの部分について様々な著書があるが、筆者はシグマクシス パートナー内藤範博氏が提唱するホスピタリティに同意する。ホスピタリティとはおもてなしと直訳されることも多いが、「顧客のダイバーシティー(多様性)を理解して、顧客のニーズに合わせてマーケティングを展開すること。民間事業者の従業員が立場を超えて、それぞれが企業の代表になったつもりでリーダーシップを発揮して、業務に取り組むこと。新しいビジネスを起こすつもりで、アントレプレナーシップ(起業家精神)を発揮すること」と定義している。

 こうして宇宙インフラ産業が拡大していけば、今まで公共事業では不要であった民間資金の調達および保険の付保などが不可欠となるため、金融業界、保険業界の活性化にも繋がり、宇宙ビジネスが民間事業で成立する時代が到来することが期待できる。