クルマのノイズ規格は民生品に比べて厳しい。規格自身が厳しいのみならず、AMラジオの音声にノイズが入ってはならないことが求められる。このためDC-DCコンバーターのスイッチング周波数としてAMラジオの周波数帯以上となる2MHz以上が好まれるが、高速スイッチングの要求につながり、さらなる高周波ノイズの原因となる。車載用機器のEMI規格対応には多くの対策部材コスト・多くの対策工数を要する。

 一般にEMIノイズ(伝導及び放射ノイズ)は、電源のスイッチング周波数及びその高調波でピークが立つ。その対策としてこれまで、
(1)LCフィルター
(2)パターンレイアウトおよびケーブルの最適化
(3)シールド
(4)MOSFETのスルーレートの抑制
などを実施してきた。

コストが低い手法

 本稿では、これらの対策に比べてコストが小さくて済むスペクトラム拡散を採り上げる。スイッチング電源のスペクトラム拡散とは、スイッチング周波数を一定範囲で変化させて、ノイズエネルギーを一周波数に集中させず周辺の周波数に分散させることで、ノイズのピーク値を下げEMI規格をクリヤし、ノイズ発生による機器への影響を低減する手法である。ただしノイズエネルギーの合計は変化しない。

 図1に、スペクトラム拡散の効果の測定例を示す。測定はCISPR25 Peak検出 Class5で実施している。

図1 スペクトラム拡散がない場合(上)とある場合(下)のノイズプロファイル
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 図1では、スペクトラム拡散には、10dBから20dBのノイズ低減効果が認められる。測定対象は車載バッテリー入力可能なDC-DCコンバーターの評価ボードである。このコンバーターは降圧型であり、スイッチング周波数は2.1MHz固定、+12Vin、5V/1A出力で測定した。スペクトラム変調範囲は2.1MHztyp-0%+6%である。