間もなく、今までに類を見ない鉛(Pb)フリーはんだめっきが市場に登場する。電子部品へのめっきを得意とするオーエム産業(本社岡山市)が中心となって、経済産業省の助成金を得て完成させた*5。ウイスカ*6抑制の性能は既存品に比べて高く、金(Au)めっきに代わる高機能・低コストめっきとして今後、注目を集めそうだ。

*5 中国経済産業局などが主催する戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン)として開発した。アドバイザーをソニーイーエムシーエス(本社東京都港区)と日本圧着端子製造(大阪市)の2社が務め、メカニズム解析や生産技術支援を愛媛大学と岡山県工業技術センターが、実験実務をオーエム産業と豊橋鍍金工業(本社愛知県豊橋市)が担当した。

*6 ウイスカ スズ(Sn)や亜鉛(Zn)などのめっき被膜表面から、時間とともに成長するヒゲ状の結晶のこと。特に融点の低いSnは電子部品を接合する「はんだめっき」として利用されることが多いが、接点付近でこのウイスカが発生すると短絡の原因となる。

 新技術開発のきっかけとなったのは2003年、オーエム産業の社内で沸き起こった一つの疑問だった。「スズ(Sn)リフローめっき(Snめっきに熱処理を加えたもの)は、5000時間が経過してもウイスカが出ない。このメカニズムを解明できれば、Snリフローへの信頼性が高まるのではないか」。当時、同社が電機メーカーにSnリフローの活用を薦めても、多くのメーカーから「理論的な裏付けがない」と導入を拒まれた。「裏付けさえ取れれば…」。同社取締役で、技術の責任者でもあるめっき部長の高見沢政男氏は、まずウイスカ発生とその抑制メカニズムについての解明に乗りだすことにした。

 その結果、ウイスカ発生の主因が、めっき層内で発生する「内部応力」と、外部からの圧力によって生じる「外部応力」の二つであることを突き止めた。Snの結晶にこれらの応力が加わることで、まるで歯磨き粉のチューブを押すと歯磨き粉が出てくるかのように、ヒゲ状の物質が成長するのだ。

 今回の研究では、実証が遅れていた内部応力の元になるひずみの発生メカニズムについても明らかにした。その主犯は、下地とSnめっきの間に生じる金属間化合物(例えば、下地がCuのときにはCu6Sn5)。これがめっき層のSn結晶の粒界に入り込むように不均一に生成し、Sn結晶内にひずみを生んでいた〔図4(a)〕1)

図4●内部応力によるウイスカ発生のメカニズム
銅(Cu)にスズ(Sn)めっきをした場合,CuとSnの間に金属間化合物ができる(a)。金属間化合物は不均一に形成されるため,ひずみが生じる。このひずみがウイスカ発生の要因の一つとなる(b)。
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