これまでのめっきの常識を覆し、斬新な技術で「新境地」を開きつつある会社が福井市にある。主に電子部品や半導体の部品を手掛ける清川メッキ工業だ。その新境地とは、母材のサイズが数百nm、そこへめっきする膜厚が数十nm、パターニングなどの皮膜制御もナノレベルという「ナノめっき」である(図2)。

図2●ナノめっきへの進化の過程
電子部品の微細化は進む一方だ。清川メッキ工業では、電子部品メーカーの要望に応えようと微細なチップへのめっきを手掛けているうちに、径が0.6μmの粉体にめっきする技術を確立した。今では、数百nmの粒子に膜厚が数十nmのめっきをし、めっき形態もナノレベルで制御できる「ナノめっき」が可能になった。
[画像のクリックで拡大表示]

 1963年に創業した同社はもともと、微細な電子部品にめっきを施す技術で高く評価されてきた。電子部品の中で現在、最小サイズである「0402」(0.4×0.2mm)にも対応し、この分野でトップクラスのシェアを持つ。ナノめっきは、この延長線上にある技術。しかし、さらにもう一つ、ナノめっきの開発に不可欠な技術があった。ニッケル水素(Ni-MH)電池の負極材として使用する水素吸蔵合金への複合めっき技術である〔図3(a)〕*3

図3●ニッケル水素電池と燃料電池の電極への活用
ニッケル水素(Ni-MH)電池の電極として、水素吸蔵合金の粒子に、PTFE粉体を混ぜ込んだNiめっきを施した(a)。こうすることで水素吸蔵合金の合金成分が電解液に溶け出さずに済む。燃料電池の電極としての活用は、まだ研究段階(b)。PTFE粉体にNiめっきをし、その粉体を加圧して電極を形成する。Niの3次元ネットワークが形成されて導電性を得られる。細孔があり、水素ガスや酸素ガスを透過する。
[画像のクリックで拡大表示]

*3 福井大学工学部材料開発工学科教授の高島正之氏と共同で開発した。同准教授の米沢晋氏と共同で開発した。

 Ni-MH電池ではアルカリ電解液を使用する。負極の水素吸蔵合金にはアルカリ環境に強いNi系の合金が使われるが、この合金には、水素の吸蔵/放出機能を向上させるマンガン(Mn)やコバルト(Co)、アルミニウム(Al)などが含まれる。しかし、これらの物質はアルカリ液に侵され、溶解する。そのため、電池を使わずに長く放置すると、これらの金属が電解液に溶け出して劣化を招く。

 これを防ぐには、水素吸蔵合金の微細な粒子にNiめっきを施すと良い。しかし、粒子の全面をめっきで覆ってしまえば肝心の水素の出入りが不可能になる。そこで開発したのが、NiにPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)粉体を混入させて複合めっきをする方法だ。めっきの膜厚は、PTFE粉体の大きさよりも小さいため、PTFEはめっきの肌に露出する。もともとPTFE粉体は撥(はっすい)水性が高く、めっきとはなじまない。そのため、粉体とめっきの間に狭い通り道ができ、ここを介して水素ガスが出入りする。