欧州の標準化や知財の活動を調査した「欧州共同調査」。参加の研究員らが、この調査で得た知見を示す連載の第2回。今回は、NEDOの大谷氏がIndustrie 4.0に向けたドイツの標準化戦略を現地でのインタビューと公表資料を基に分析する。

 ドイツ政府が主導する生産プロセスの革新を目指す産官学一体のプロジェクト「Industrie 4.0」に、日本でも関心が集まっている。Industrie 4.0に関するセミナーが国内で頻繁に開催され、雑誌や新聞で関連記事が多く掲載されるようになった。

 Industrie 4.0は、ドイツの企業の競争力を強化するためにICTによるものづくりの革新を狙った取り組みだが、その戦略の核は、用語や通信プロトコルなどの標準化にある。実際、Forschungsunion Wirtschaft und Wissenschaft(研究連盟 経済・科学)とAcatech(ドイツ工学アカデミー)がIndustrie 4.0における優先事項の最初に標準化を掲げている他1)、VDE(ドイツ電気技術者協会)がIndustrie 4.0に関する標準化ロードマップを公開している2)。もちろん、その背景にはドイツ企業の競争優位を確保するための標準化戦略が存在するのは明白だ。

1) Forschungsunion Wirtschaft und Wissenschaft, Acatech, "Recommendations for implementing the strategic initiative INDUSTRIE 4.0," Apr. 2013. 2)VDE Association for electrical, electronic & information technologies, "The German Standardization Roadmap Industrie 4.0," Apr. 2014.

 Industrie 4.0に関して開示されている情報は概念的、限定的であり、外部からはその標準化戦略の全貌はうかがい知れない。全てが一貫性をもって示されたときには、既に全てが標準化されており、日本企業はそれに従わざる得ない状況に陥っている可能性がある。もちろん、日本としてはこうした最悪のシナリオは避ける必要がある。そのような問題意識を念頭に、筆者はドイツにおいてIndustrie 4.0の事務局や大企業、中堅企業、中小企業、中小企業支援機関に対して現地ヒアリング調査を行った。この稿では、その調査結果を基に企業規模における取り組みの違いを明らかにし、標準化という観点を切り口にして見出されるIndustrie 4.0の全体像と今後注意すべきポイントを述べる。