日本機械学会誌から
目次
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高圧水素ガス環境中で使用される金属部品の強度設計
80MPaで脆化にさらされても耐える材料と、寿命の解析
燃料電池自動車(FCV)や水素ステーションで使われる水素ガスの圧力は、最大で80MPa以上に達する。そんな高圧の水素に曝される金属部材(配管、弁、蓄圧器など)は、材料中に侵入した微量な水素による強度や延性の低下(水素脆化)を考慮した強度設計が必須となる。高圧水素ガス環境中で使用される金属部品に対する…
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水素輸送
圧縮水素ガスまたは液体水素の経済性向上を目指す
地球温暖化と資源枯渇問題を同時に解決する水素エネルギーへの期待が高まっている。わが国では2014年発表の「エネルギー基本計画」で「水素社会」実現に向けたロードマップを策定し、取り組みが明記された。各種水素利用システムの規模に適した経済性の高い水素の製造方法に加えて、輸送貯蔵方法の実用化が重要である。
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水素製造
水蒸気改質と水電解の経済性を追求
水素製造は、化石燃料や水など容易かつ大量に入手可能な原料を用い、分子内に水素原子を含む化合物から水素を取り出すプロセスである。化石燃料をその出発原料とする場合、水蒸気改質反応および部分酸化反応が用いられ、水を原料とする場合は電気分解反応が用いられる。
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ヘリコプターの非線形音響現象について
ローター先端のスピードは遷音速、衝撃波で騒音発生
米国や日本のヘリコプターでは、ローターを上から見るとブレードは反時計回りに回転する。右舷側ではブレードの回転速度と機体の前進速度が合わさり、高速前進飛行の際、ブレード先端付近で空気流入速度が遷音速に達する。この結果、ブレード翼面上に衝撃波が現れ、それが高速衝撃(High-Speed Impulsi…
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ソノルミネッセンス
発光するのは液体内の気泡に存在する数千度・数百気圧の極限環境場
液体に強力な超音波を照射すると発光することが1934年より知られており、ソノルミネッセンスと呼ばれている。実際に発光しているのは液体中の微小な気泡だ。この気泡の内部は、温度は数千度の高温であり、かつ数百気圧という高圧の極限環境場になっている。
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熱音響現象とその応用
熱エネルギーを音響エネルギーに変換して運搬する
熱音響システムは、熱を投入して音波を発生させる熱音響エンジンと、音波から温度差を作り出す熱音響ヒートポンプという2つのシステムで構成される。両者を組み合わせ、熱エネルギーを音波に変換して遠隔地に伝搬させ、再度熱エネルギー(温度差)に変換させられる。得られるのは温度差なので、高温端を室温の冷却水で冷…
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パワーアシストのメカトロニクス
力持ちになる機械、疲れにくくなる機械
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両手協調作業機能のリハビリテーション用ロボットシステム
仮想空間と実空間を使い分け、視覚・触覚で作業意欲を引き出す
部品組み立て、重量物や柔軟物体の持ち運びなど、左右両手を協調させて作業するための身体機能は、自立した生活において極めて重要だ。脳卒中などで半身麻痺障害が残ると生活活動に大きく影響し、患者のQOL(Quality of Life)を著しく低下させ、家庭や社会にも重い介護負担を強いる。この両手協調作業機…
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高機能化が進む義足・下肢装具
センサーで装着者の意図を検出、駆動力とブレーキ力を調整
メカトロニクス技術を義肢装具に組み込むことにより、四肢障害者の運動機能の再建を進め、より健常者に近づけることが可能になりつつある。
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爆発安全研究の魅力と今後の展開
機械をぶっ壊す研究とその応用
現在、用いられている固体ロケット推進薬は、過塩素酸アンモニウムとアルミニウムをポリマーで固めたものです。組成から「火薬」に分類され、火薬類取締法の適用を受けます。このため、当時の宇宙開発事業団(NASDA)は、火薬の研究を専門にしている私の研究室に協力を依頼してきました。
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加工機をはかる:多軸工作機械の運動精度のチューニング
補正制御で一段上のレベルの加工精度を得る
多軸工作機械では、回転軸の中心位置誤差などの軸配置に関する幾何誤差が運動誤差の主要因の一つとなる。室温変化や床などの状態変化で数~数十μmの経時変化があるため、高精度な加工には機械が稼働する環境下で幾何誤差を計測・調整する必要がある。
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工作物をはかる:ナノ精度超精密加工と機上計測
工作機械の限界を超える加工領域を目指す
デジタルカメラ、DVD、光通信デバイス、スマートフォンなどの情報・デジタルデバイスには非球面形状の光学部品が用いられるが、その光学特性と機能の向上のため、高傾斜角を持つ高NA(開口数)化や自由曲面化、複雑形状化、そして高精度化のニーズが高まっている。こうした光学部品とその成形金型は、超精密加工(切削…
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サーフェスメトロロジーとその国際標準化の動向
3次元表面性状を記述する「標準語」を求めて
科学技術用語としてのSurfaceは一般に「表面」と和訳されるが、厳密には物体の外表面すなわち実表面を指す場合(界面あるいは境界面とも称される)と、測定機器によって得られたデータの包絡面情報を指す場合とがある。後者はモデル化された面情報である。測定手段や測定原理・方法により異なると推察でき、その情…
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ステンレス車両の技術史―Pioneer Zephyrからsustinaまで―
車両専用の低炭素ステンレス鋼も開発、独自技術で軽量化と無塗装化が進む
わが国は沖縄県を除く46都道府県でステンレス車両が走るステンレス車両大国である。ステンレス車両は、材料の高張力化や高耐候性を生かして車体の軽量化・無塗装化が可能で、省エネ化・省メンテナンス化に直結することから、在来線車両を中心に広く用いられている。本稿では、米国の技術ライセンス終了までの黎明期、日本…
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アルミニウム車両技術の歩み
中空形材の採用で軽量化と剛性確保を両立
アルミニウム合金を用いて構体(車体の基本的強度を受け持つ構造物)を軽量化する考えは古くからあり、1934年頃には米国で特急列車の車体外板に用いた例がある。日本では太平洋戦争後となったが、それでも本格的オール・アルミ車両を登場させて50年以上の歴史を刻んでいる。合金技術・加工技術・接合技術、設計技術が…
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鉄道車両のブレーキの歴史
運転台からのブレーキ指令をどう後尾車両に伝えるか
鉄道車両の特徴は、複数車両が連結され、1カ所(一般的には運転台)の指令で走行/停止できることだ。これと安全を両立させるため、ブレーキは古くからよく考えられてきた。法的にもブレーキが具備すべき事項は幾つかあるが、以下2点が大きなポイントだと考えている。(1)1カ所の指令で全車両同時にブレーキが作用す…
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車輪とレールの技術史とわが国の現状-車輪とレールの形状-
テーパーと円弧を組み合わせた断面で摩耗を減らす
鉄道車輪を特徴付けるフランジと踏面勾配(レールに接触する面の傾き)の歴史だが、17世紀初頭すでにフランジ付き車輪が存在し、1820年代に至っても、輪軸の内側か外側か両方かフランジ位置論議が続いていた。また、1825年にStocktonとDarlington間で鉄道営業を始めたGeorge Steph…
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空気ばねボルスタレス台車の技術史
軽量化と保守性向上を実現し地下鉄から新幹線まで普及
鉄道車両の台車は戦後、溶接台車枠、カルダン駆動装置、新しい軸箱支持装置の開発などにより軽量化・高性能化が図られてきた。しかし、さらに性能を改善するには、従来の台車構造の延長線上では難しいことから、揺れまくらを省略して大幅に構造の簡略化、軽量化を図ったボルスタレス台車が開発されることになった。今では新…
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橋梁センシングシステムの展望と開発
目視点検が困難な内部損傷もモニタリング可能
高度成長期以降に整備された橋梁などの社会インフラ構造物は、建設後50年以上を経過するものが増えており、劣化の進展が社会的問題となる危惧が高まっている。現実には、目視点検困難な内部損傷が進行し、目視確認できたときにはすでに深刻化しているケースも存在する。内部損傷の検知に有効なセンサーとしてAE(アコー…
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超音波連続肉厚測定装置による減肉管理
設備の局所的な腐食減肉を見逃さない
減肉管理は、開放検査などで目視可能な場合は目視で腐食部位を特定し、その部位の減肉深さをデプスゲージなどで測定する。こうして検査の網羅性を確保しつつ危険部位の減肉深さの管理も可能となる。しかし、目視の困難な機器や部位では超音波肉厚計による定点測定により管理されてきており、検査の網羅性の点で課題を残して…