核分裂を扱う既存の原子力発電技術より安全とされる核融合発電技術だが、放射能と全く無縁というわけではない。(1)燃料として利用する重水素(D)とトリチウム(T)のうち、トリチウムが放射性物質であるため、その厳重な管理が必要になる、(2)炉の内壁の材料などが核融合反応から放出される高速中性子によって放射性物質に変化してしまう「放射化」が起こる、といった課題がある。

 青森県六ヶ所村にある、日本原子力研究開発機構 核融合研究開発部門 六ヶ所核融合研究所では、トリチウムの生成、回収技術や管理技術の開発と、炉材の放射化についての実験的検証を進めている。さらに、トリチウムの生成のための、リチウム(Li)の海水からの抽出技術も開発している(詳細は、日経エレクトロニクス2015年2月号の特集「核融合発電、再燃する開発競争」を参照)。これらを取材するために、2014年12月半ばに同研究所を訪れた。

「あ、イーターの研究所か」

 ただし、現地にたどり付くのは容易ではなかった。六ヶ所村は、最寄の鉄道駅から直線距離でも20km以上、新幹線の駅からは30km以上離れ、直通の公共交通機関もほとんどないからだ。駅からタクシーを使えば往復で少なくとも1万5000円、条件によっては3万円以上も掛かることもある。この移動費用をできるだけ圧縮するために、当初は駅からレンタカーで行くつもりで、予約までした。

 ところが、数日前から、取材日は暴風雪になる予報が出ており、テレビなどが「不要不急の外出は避けてください」と連呼する状況になった。レンタカーの車両にはスノータイヤが装着されているとはいえ、走ったことのない雪道を走ることは危険と考え、ローカルバスとタクシーを乗り継いで現地を訪れることにした。駅からタクシーで直接行くより費用は多少浮くが、バスの終点は多少の民家がある他は原野に近い場所。乗り継ぎがスムーズにできないと、吹雪の中に置き去りにされ、凍死の危険さえあり得る。このため、タクシーを予約することにした。

 六ヶ所村にあるタクシー会社に電話で「行先は日本原子力研究開発機構 ~」と伝えても、知らないのか全く要領を得ない。押し問答しているうちにタクシー会社側が「もしかして、イーター(ITER)の研究所のこと?」と問い返してきた。訪問予定地は、2000年代前半に国際熱核融合実験炉(ITER)建設の有力候補地だった経緯がある。地元には今も「ITERの研究所」として認識されているようだ(写真1)。

 それは今でも間違いではない。六ヶ所核融合研究所内には、ITER計画の一貫として「国際核融合エネルギー研究センター」が置かれている。しかも、ITERの稼働時には、ITERの制御室とほぼ同じ機能を備えた「ITER遠隔実験センター」が設置される予定になっている。「(フランス・カラダッシュに建設中の)ITERの稼働状況がリアルタイムにセンターに通知されるようになる」(六ヶ所核融合研究所 所長の牛草健吉氏)という。

写真1 雪煙の中の六ヶ所核融合研究所
写真1 雪煙の中の六ヶ所核融合研究所
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