遠隔病理診断システムとのワークフロー、データ連携を実現

 一方、病理診断データ管理システムは、遠隔病理診断のワークフローをシステム化し、病理診断を依頼する外部施設のシステムと密接に連携した運用ができる点が大きな特徴である。単に病理診断レポートを電子カルテに取り込むのであれば、スキャンしたレポートやPDFファイルがあればいいが、「仕上げられた病理レポートの背景にある病理医の多くの情報・知を蓄積する」(山田氏)ことを目的としている。

 「単科の病院で病理診断医や検査技師、診断のための機器を揃えるのは困難です。そのため当院では、手術・内視鏡で採取した検体や、肝生検による組織片などを業者に送り、納品されたプレパラートから画像データを作成して、病理診断を外部委託するという国内初の体制をとっています。このワークフローにおいて、できるだけ人手をかけずに、診断画像やレポートを院内の基幹システムに取り込む仕組みが必要でした」(山田氏)というのが病理診断データ管理システムの開発動機だった。

 肝生検の病理診断依頼に当たっては、まず、検体を標本作成業者(現在はパソテック)に送り、病理診断プレパラートが作成されて納品される。次にKIFMEC内で「バーチャルスライドスキャナ」(NanoZoomer:浜松ホトニクス製)と呼ばれるスキャナシステムを用いて標本プレパラートのデジタル画像(バーチャルスライド)を高速・高解像度で作成し、データベース化する。

 作成した大容量のバーチャルスライドは、インターネットやイントラネット経由で配信する画像配信ソフトウエア(NDP.serve:浜松ホトニクス製)に転送され、KIFMECのFileMakerにはサムネール画像のみ送信される。このサムネール画像をクリックすると、NDP.serveにURLリクエストが投げられ、付与されたIDを用いてアクセスすると、FileMakerのWebビューアで原画像を参照できるようになっている(写真5)。バーチャルスライドは大容量で、ネットワーク経由でFileMakerシステムにすべてダウンロードするのは現実的でないため、このような方式を採用しているという。

写真5 肝生検画面のサムネール画像をクリックすると、遠隔診断先施設の画像配信システムに接続され、標本プレパラートの原画像をWebビューアで参照できる。

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 一方、病理診断医(現在は、京都大学付属病院病理診断科へ委託)は、KIFMECの仮想端末にアクセスして内部ネットワークに入り、病理診断データ管理システムに直接、病理データとレポートを入力する(写真6)。KIFMEC側と病理診断医は、同システム上で情報共有しながら、それぞれのデータを記録することになる。

写真6 肝生検の入力画面。青色部分はKIFMEC側、ピンク色の部分は病理診断医が入力する。診断メモやレポートの背景にある詳細な病理データは、「生検Cording画面」に入力される。

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 「自施設内で病理検査を行える場合にはオーダー情報・結果が遷移するフローを逐次確認できますが、外部施設に依頼し、かつシステムを相互運用するためには、こうしたバックグラウンドの仕組みづくりが重要となります。サムネール画像取得の自動化、あるいは表示が追いつかなかった場合にボタンをクリックするとサーバーサイドスクリプトが走って取得してくるなど、FileMakerの様々な技術を駆使しています」(ジュッポーグループ取締役の卯目俊太郎氏)と、外部システムと連携したワークフロー管理の技術的工夫を説明する。

 一方、電子カルテとのデータ連携については、FileMakerの連携プラグインで基本的に実現している。電子カルテ画面の入力フィールドで右クリックすると、FileMakerの当該レイアウト画面が起動してデータを転送できる。このほか、FileMaker側からの操作で、テキストを電子カルテ側に転記する仕組みや、オペレコと病理レポートをPDF化して電子カルテにアップロードする仕組み(C-Scan連携)などを実装している。

 「これまでは貴重な手術情報が活用されず、放置したままになっていました」と話す山田氏。現在は、術前・退院サマリーやオペレコ、病理診断データに限られてはいるが、活用できるようになった。将来的にはFileMakerをユーザーインターフェースとした基幹システムを構築し、データ活用をさらに推進したいと展望する。

■病院概要
名称:神戸国際フロンティアメディカルセンター(Kobe International Frontier Medical Center)
理事長・院長:田中紘一氏
所在地:兵庫県神戸市中央区港島南町1-5-1
開設:2014年11月17日
病床数:120床
Webサイト:http://www.kifmec.com/
導入システム:ファイルメーカー「FileMaker Server 13」「FileMaker Pro 13」